From Idea to Reality

第9章 理想から現実へ


第3章で述べたようにスマートハウスは、司法省が1984年の共同研究法(National Cooperative Research Act)に基づいて、最初に認可したプロジェクトであり、非常に先進的な計画のため、その成功には、建設、電気、エレクトロニクス、ガス業界など、参画した企業が、未だかって経験したことのない協力体制で臨むことが必要であった。

組織間の連携の難しさは、少なくとも技術開発自体の困難さに匹敵するものである。事業体(venture)の概略と、計画の大筋は第3章に述べたが、ここではもう少し補足しておく。


●参加企業とアドバイザー


スマートハウスプロジェクトに参画した製造会社40社は以下の通り

***** 原本Page 121〜122 社名 *****

3章でも述べたが、スマートハウスで使用される設備や機器に関わる製造業に、属さない企業や団体も、このプロジェクトに強い関心を寄せ、何らかの関与を求めてきた。

これらの企業には、もちろんアメリカ、カナダの電力、ガス会社、電話会社も多数含まれているが、中にはイタリアのエネルギー産業(Agip Petroli)も名を連ねている。

これらの企業は、諮問委員会に参加し、定期的に会合を開いてプロジェクトの進展状況についての情報を得、必要なインプットを行う。諮問委員会のメンバーは次にあげる。

***** 原本Page 122〜123 社名 *****

これらの企業・団体の中でも、電力研究所とガス研究所は、諮問委員会の代表としてスマートハウス実現の資金面で大きな貢献をした。

また両団体は、諮問委員会のメンバーであると、同時に、スマートハウスプロジェクトのスポンサーとして名を連ねている。


●事業体(Venture)の役割


プロジェクトに参加した企業・団体は、その遂行にかかわるほとんどの責務をスマートハウス開発事業体に委任した。それには、スケジュール管理、開発事業の調整、技術面での品質保証などが含まれる。

さらに重要な事業体の責務としては、スマートハウスネットワークを機能させ、器具類が相互にコミュニケーションし、全体として統一のとれたシステムとして作動させるエレクトロニクス言語を開発することがあった。

この言語を認識し、使いこなす能力は、スマートハウスネットワークの「チップ」に組み込まれ、住宅内の全ての設備機器が、これに接続される。このチップの開発、およびライセンスの保持も事業体が請け負うこととなった。

個々の製造会社が、分担された開発品目を完成させると、その製品の製造ライセンスは、スマートハウス開発事業体に移管され、事業体は、システム全体と、付属する製品を同時に発表できる段階まで、全てのライセンスを保持しておく。

システムの完成・発表と同時にこれらのライセンスは元の製造会社に戻され、製造を開始することができる。


●建設プログラム


1987年4月に起工した第一号実験スマートハウスは、ガス研究所と全米ホームビルダー協会研究センターがスポンサーになった。

実験ハウスは、ガス協会の技術的関心事の実験の場として、またスマートハウス配線システムの第一号として、個々の装置、システム全体の統一性のテスト、さらにソフトウェアや機器のテストも行われる。

同時にスマートハウスに関するヒューマンファクターと使用法の研究も始められ、コントローラーはどの型がベストか、などの選択肢を定めていく。

第二号グループに属するスマートハウス(プロトタイプハウスと呼ぶ)の建設は、1988年中ごろに予定されている。

全米の、それぞれ異なった地域、数ヵ所が建設場所として選ばれ、建設資金は諮問委員会の参加企業・団体、それぞれの地元のホームビルダー協会、建設会社、プロジェクトメンバーの製造会社の共同出資でまかなわれる。

プロトタイプハウスは、人間が住むために必要な、全てのアメニティを備え、より高度なシステムインテグレーションをテストし、ガスと電気の双方向コミュニケーションなど、スマートハウスの操作に関わる機能を開発することになる。

さらに施工訓練プログラムを作成したり、市場調査を行ったりする場としても使用される。

スマートハウス諮問委員会のメンバーとなっている電力、ガス、電話会社のほとんどは、提供するサービスの改良、拡張および新しいサービスの開発に関して、スマートハウスの果たす役割が大きい、ことを確信している。

プロトタイプハウスでこれらの企業は、新しいサービスの提供に関連した技術研究、さらにユーザーの反応を調査する予定である。

プロトタイプハウスでの調査研究には、ほとんど89年いっぱいかかる予定であるが、スケジュールでは、そのころまでに、参加製造業各社は、必要な部品、材料、機器、装置などの標準製造モデルを仕上げることになっている。

そして、来たる90年代に向けて、スマートハウスの商品化がすすめられる。スマートハウスに関心を寄せるビルダー、ディベロッパーによって、100棟前後のモデルハウスが建てられ、全米規模でスマートハウスが売り出され、顧客は、近くのビルダー、ディベロッパーに直接発注できるようになる。


●スマートハウスのコスト


スマートハウスネットワークを新築住宅に設置する費用は、各製品がまだ開発途上で、価格が未定であるため、決まっていないが、設置コストはその後の、ガス・電力などの公共料金を節約できる分と、災害保険料の引き下げ分の差額で、十分相殺できる。

スマートハウスの価値は半永久的に増すだろうし、よい条件で転売することもできよう。現在の配線システムの設置にかかる費用は、5千ドル程度だが、スマートハウス設備の設置・施工は、これに数千ドル上乗せした金額が必要であろう。

今後、新型機器の製造が軌道に乗り、業者の施工例が増えていけば、従来タイプとスマートハウスネットワーク施工のコスト差は、あまり問題とならない程度になると思われる。


●スマートハウス これからの十年


新しいシステムが市場で広く受け入れられると、十年以内に、新規住宅着工のかなりの部分が、スマートハウス配線システムを導入すると思われる。同時に、スマートハウスハードウエアの「従来型適合タイプ(retrofit version)」が開発されるだろう。

しかし、このタイプが、現在ある住宅のほとんどに設置される、ということはないと思われる。既に建築されている住宅の配線を、全部やり代えることはやはり費用のかさむことだからである。

それでも、新しい部屋や、棟を増築、あるいは本格的な改築を行う場合、配線システムも近代化したいと思うオーナーも多いにちがいない。

図23の棒グラフは、新築および既存の住宅にスマートハウスが導入される件数を予測したものである。90年代終わりごろになると、累計で800万戸以上のアメリカ・カナダの住宅およびlight-frame buildingsが新しい配線システムとなっているであろう。

図−23

久しく家の玄関に「足踏み、止まれ」していた情報化時代がやっと家の中に上がることになる。トーマス・エジソンも、さぞや喜んでくれることだろう。


Last modified: Tue May 14 11:30:00 JST 1996
(c) Dr.Shigeaki Iwashita

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