Living in the Smart House

第8章 スマートハウスのくらし


スマートハウスの実現によって、現在できることをさらにベターに、また現在不可能なことが可能にもなる。

この可能性を発展させると、メーカーのイマジネーション、あるいは消費者の強いニーズに対応して、様々な新製品、サービスが生まれてくるだろう。予想される製品開発や利用について考えてみよう。


●あたらしいタイプのガス・ディストリビューション


スマートハウスの実現で大きく変わるのはまず、住宅における天然ガスの利用のしかたである。現在天然ガスを利用する住宅では、ガス管網は、ガス器具の置かれた何カ所かに敷かれ、永久的に、あらゆるガス用途に用いられる。

ガス器具を移動させようとすると、配管のやり直しが必要となり、その工事は大ごとになってしまう場合がほとんどである。またガスの配管は、電気やコミュニケーションのネットワークとは、ほとんど関連がなく、あるとすれば、スイッチやサーモスタットに連絡している程度だ。

スマートハウスのガス・ディストリビューション・システムはディストリビューション、コントロール、安全管理、モニター、コミュニケーションの5つのサブシステムから成る。

住宅の様々な場所に設置された、たくさんのガス・アウトレットや、コンビニエンス・アウトレットにガス器具のプラグを差し込むと、ガス配管に接続すると同時に、スマートハウスネットワークにも接続する。この仕組みを図式化したのが、図19である。

図−19

ガス・ディストリビューションは、コントローラー、モニターユニットで集中管理される。このユニットは、ガス器具とフローメーター、バルブ、レギュレーター、センサーなどからのデータに基づいてガスの流れをコントロールする。

ガスの流れとメーターは常時モニターされる。器具がガス・アウトレットに接続され、スイッチが入れられると、スマートハウスネットワークを経由して、コントローラー、モニターユニットにその情報が送られる。

この情報でガス器具の存在を知らせ、必要なガス量を伝える。その上でコントローラーはガスがアウトレットに流れていくのを許可する。

スマートハウスでは、室内の空気は常にモニターされている。家の中のどこかのゾーンで空気の汚れが一定のレベルに達すると、換気装置、あるいは新しい住宅に見られる「air-to-air heat exchanger」をつかってフレッシュな外気を入れ、空気をきれいにする。


●変わりゆく電化製品


機器に異常が起こった場合には、スマートハウスシステムはオーナーにすぐ知らせる。(外出の場合には電話で知らせる。)ガス漏れ、水漏れは、家族が在宅かどうかにかかわらず、すぐ検知され、止められる。

スマートハウスシステムがあれば、オーナーは家の外、例えば外国からでも、システムにアクセスできる。旅行で家をあける前に、家中を点検して、ドアをロックしたりサーモスッタットをセットしたり、器具のスイッチを切ってまわる必要はなくなった。

タッチ式電話(touch-tone telephone)で全部の指令は完了する。どこにいても、家で何らかの問題が起これば知らせてくれ、ユーザーの指示でこれに対応できる。

レンジやその他の危険が伴う電動用具は、子供を監督する親がいない時や、障害者が家に一人で残されるときにはロックしておける。(図20)

図−20

前にも述べたが、電気の利用に関する基本的な限界は、直流電力の導入で解決できる。直流で使用できる機器は軽量小型で高効率、生産コストも低くなる。電流の変換に必要なサーキット・装置や、スピード変更に必要な機械もいらなくなる。


●セキュリティ・システム


ホーム・セキュリティ・システムのコストも、専用の配線がいらなくなるので、安くなる。基本的なスマートハウスのネットワークには、セキュリティ・システムコントローラー、住宅内の各所に設置されたセンサーが組み込まれている。

火や煙の探知器、火災探知器は、室内温度の急激な上昇を感知するもので、煙探知器は、一酸化炭素、二酸化炭素など、燃焼によって生じるガスのイオン数の増加を感知する。

人の存在や動きを感知するセンサーは、現在、目ざましいスピードで、技術的に洗練されたものとなりつつある。この種のセンサーの基本的構造は、次の2タイプである。

周囲の熱分布パターンから、変化や障害物を読みとる赤外線センサー。これは例えば、人が部屋の中を移動する時に生じる体の温度を見分ける。もう一つの超音波センサーは高周波の音波を発し、はねかえってくるエコーを聞きわけることによって、部屋の中の動きを感知する。

これらのセンサーは、猫などのペットの動きなどで影響を受けないよう床面近くを避けて設置される。

新しいタイプのセンサーには、赤外線と超音波の両方の能力を合わせたもの、または、超音波の代わりにマイクロウェーブの電波をつかい赤外線と組み合わせたものがある。

これらのタイプでは、装置の中の2つのセンサーが両方とも異変を感知してからアラームを発するよう、チップでコントロールされている。ビデオカメラを導入した高度な家庭用システムも開発されている。

ビデオを使ったシステムでは、侵入者を察知すると、その行動を一部始終、正確な日時とともに、映像として記録する。その他のタイプのセンサーとしては、画像解析(image analysis)があげられる。

画像解析は非常に高価なものだが、チップ技術がもっと進歩すると、価格も下がり、ホームセキュリティシステムへの応用が可能になるだろう。この画像解析を使ったシステムも、やはり、室内にいるべきでない人物やペットなどの動きを感知するという方法には変わりがない。

音声認識(voice recognition) もまた、技術の進歩とともに、セキュリティシステムに組み込まれていくだろう。オーナーの手によって直接にアラームを作動するのと同じように、音声コマンドでシステムの警戒指令と解除ができるようになる。

システムが侵入者に対して取る警戒体制は、スマートハウスネットワークのセキュリティコントローラーが、センサーからのデータを受け、ユーザーからうける指令・指示を了解して、データに基づき論理的操作を実行することにより、ユーザーが望む方向で的確に対処する体制を言う。

セキュリティ会社で、最近よく見かけるタイプの、集中モニターセンター(central monitoring bureau)では、アラームを自動的に受信する。

同時に、夜間の侵入者に対しては、システムは、オーナーの寝室、侵入者の入った部屋、あるいは両方の部屋の照明を自動的に点け、また侵入者に対して、その存在は感知されており、警察に連絡済みであることをアナウンスすることもできる。

オーナーが不在、もしくは在宅でも、家の中のあかりをつけたり消したりしながら、侵入者への警告と同時に、大きな音でアラームを鳴らすこともできる。オーナーの希望により、住宅内への侵入だけでなく、窓際近くなど家の周囲に侵入者がある場合にも、同じような警戒システムをとれる。

日中、家族がみな外出して留守の時も、大きな音のアラームで、隣家に知らせる、あるいはオーナーの会社に電話する、などの体制がとれる。


●その他の利用法


テレビスクリーンのプラグをアウトレットに差し込むと、テレビ放送、VTR、または住宅内外に設置されたセキュリティカメラの映像も映し出すことができる。

同様に、オーディオスピーカーも、いろいろな音源からの信号を受信できる。コードレス・コンピュータキーボードで、テレビスクリーンをモニターにして、ワープロを打つこともできる。ながら族には、テレビスクリーンの上の方に、いくつかのテレビ番組を音なしで同時に映しながら、仕事をすることも可能だ。

テレビで面白そうなことがあれば、仕事の手をとめ、そのチャンネルを音つき、フルサイズで見ることも容易だ。

スマートハウスは、家族全員のカレンダーメモとしても使える。デビィド・マックファデンは「様々なソフトウェア・パッケージで、多様なスケジュール管理ができる。音声認識ができれば、カレンダーに行動予定やアポイントを、声で直接入れることができる。

これは家でも、車の電話からでもいい。そして毎朝、一日の始まりの時に、その日用に蓄えられたボイスメッセージでチェックする。スマートハウスシステムは、また、時間になると「薬を飲む時間ですよ」とか「美容院の予約は3時です」などと音声によるアナウンスもできる。

別のソフトウェア・パッケージではTVのディスプレイを同じように使える。手元のコントローラーでスケジュールを入力し、毎朝画面で予定をチェックする」


●特定グループのニーズ


スマートハウスの機能はある面で、老齢者、身体障害者のニーズに特に適合する。まず音声認識である。

現時点で、声の合成技術の開発は進んでおり、テレフォンサービスの時報案内などに、既に利用されている。音声認識はこれより難しい技術だが、そろそろ実用化の段階に近づいている。

この本の構成・執筆中にも、パリのオートショーでは、ボイス・コントロールでワイパー、ラジオ、ヒーター、エアコン、ウインドの操作をするモデルカーが出品されたし、ニューヨークおもちゃ博では25の単語を認識し、100のフレーズに答える人形が話題になったし、カリフォルニアのある会社は、音声コマンドでコントロールできる車椅子を製造した。

また、ある有名なコンピュータメーカーが15000語のはなしことばを認識し、ほとんどエラーなしでそれをプリントできるワープロを開発中、というまことしやかな噂が流れた。

音声認識を備えたスマートハウスでは、システムは語りかけられる声を認識して、プログラムされたやり方で、それに対応する。初期の音声認識装置は、おそらく一人の人間の声しか認識できないであろう。

認識のもととなるのは、音声パターンと声の早さ、高さ、話す声の力学的要素などの「声の信号(vioce signature)である。話し手は必要な何単語かを、繰り返しシステムに聞かせて、システムは、言葉の中でその単語をとらえることによって、適切な指示を実行する。

住宅用の音声認識システムは、システムへの指示を与える、わずかな単語群の認識をベースとして成り立つ。このレベルの音声認識能力は既に存在する。スマートハウスのネットワークは、合成された声で応答し、様々の決まった答えで対応する。

音声合成と音声認識は、ある特定ユーザーグループの、例えば目の見えない人々のニーズを満たす。レンジをつけっ放しにした時などに、システムは声を使って知らせてくれる。(図21)。その他の目的にも音声コマンドで機能する。

図−21

この機能の一部は、家族の中にお年寄りがいる場合にも大いに役立つ。家族の留守中にお年寄りが倒れたり、怪我をしたり、不測の事態が起こったときは、ただ「助けて!」と言うだけで十分だ。
図−22

社会の高齢化が進むと、この種のサービスに対するニーズは高まる。65才以上の人口は着実に増えており、平均寿命も伸びている。

一人暮しの老人は今、全米で800万と言われ、その4分の3は女性であるが、今後その数は増え続けるだろう。また家族と同居している老人も、学校や仕事のある日の日中は、一人で家に取り残されるケースが多いだろう。

重い病気をもちながら在宅療養する患者に対する、様々なサービスが確立されている。普通これらのサービスには、患者が首のまわりにかけたり、携帯できる小さな装置が使われる。

緊急時にこの装置のボタンを押すと、病院や、プライベートで運営されているモニターセンターに、電話に取り付けたユニットを経由して、信号が送られる。

もちろん、アメリカのお年寄り全部の首に、この装置をつけ、ボタンを押させるのは実際的でも、望ましいことでもない。そしてスマートハウスが実現すれば、そんな必要もない。

音声認識システムは、病人やお年寄りだけでなく、もっと広い階層に、元気に自由に動きまわれるときにも、迅速な保護が必要な時にも、同じ様な保護・救護サービスを提供することができる。

音声コミュニケーションを受け、理解し、外の世界とコミュニケーションすることで問題を解決するスマートハウスの能力は、アメリカ人の生活に最も価値のある技術になるかもしれない。

そして、病気や特別の理由があってもなくても、居間のソファに座ったままで、マイクのピックアップやスピーカーを使って電話で会話を楽しめるだろう。


Last modified: Tue May 14 11:30:00 JST 1996
(c) Dr.Shigeaki Iwashita

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