Energy Management and Conservation

第7章 省エネとエネルギー管理


家庭におけるゾーン温度管理と各種の実験プロジェクトから、前章で述べた、1940年代の実験で得られた20%のエネルギー削減を達成することは難しくないと思われる。

ゾーン温度管理は、また、大きな社会的インパクトを持つ。現在、合衆国全体の発電量の3分の1は家庭用であるが、戦後のエネルギー利用は1973年のオイルショックを境にして、全く違った様相を呈している。


●安価な電力の時代


オイルショック以前は、電力は豊富で安価な資源であった。電力会社は、電力消費を積極的にすすめる、大々的な広告やキャンペーンを行った。60年代初めの雑誌広告は、ライト1個をつける電気のコストが、1929年の大恐慌当時と変わらない低料金であることを強調している。

増加する電力利用に対応するのは簡単であった。発電能力を需要が上まわれば、電力会社は新しい発電施設を建設した。その設備投資資金は、当時の建設コストの低さ、及び増大する需要から、それほど問題なく回収できた。将来も、現在と同様バラ色に思えた。

誰もが、時代遅れの石油を使う火力発電は、限りある資源の将来と、増大するコストのために原子力発電に道を譲ると思っていた。原子力は比較的安かったので、国民は、今後いつまでも安いエネルギーを利用できるようになるであろうと期待していた。


●新しい時代


我々の社会や経済の多くの面がそうであるように、エネルギー利用のあらゆる点が、1973年以降、変化した。原油の使用に依存していた発電所は、オイル価格の急騰に直面した。

代替として石炭の利用が考えられたが、石油、石炭ともに(特に石炭の場合)、燃焼による大気の汚れに、人々はもはや耐えられなくなっていた。工場の煙突から立ちのぼる排気から、かなりの金額をかけても廃棄物のほとんどを処理する必要に迫られてきた。

また、新しい発電所の建設も、都市化の進行、環境問題への関心、地域の反対運動などから、候補地を探すことがどんどん難しくなっていった。

時を同じくして、原子力発電のバラ色の夢も崩壊していく。1970年代後半、ペンシルバニア州ハリスバーク近郊のスリーマイル島の原子力発電施設での事故をきっかけに、人々の原子力発電への危惧が高まり、新たな発電所の建設をさまたげる程のパワーとなった。電力会社自体も多くの問題点にぶつかった。

これまで原子力廃棄物の有効な処理方法は見つかっていない。州も自治体も廃棄物の投棄を認めたくないし、処理場をつくることを避けようと、規制や裁判で決着をつける方法を選んでいった。

この間に、安定していた電力コストが上昇を始める。公共エネルギー委員会(public utility commissions)は、消費者よりで、ほとんどの場合、電力会社の値上げ申請を抑えていたが、結局、発電コストの上昇が明らな事実となってくると、電力料金を上がざるを得ない。

このように1973年以降のエネルギー事情には3つの要因が絡んでくる。発電コストが増大し、石炭、石油エネルギーから原子力へのシフトがうまく実現しなかった。また、新しいプラントの建設がよりいっそう困難になった。これらの事情が、エネルギー節約への広い関心を育む土壌となった。

電力会社はエネルギー効率のいい家を建てるなどの研究に費用を投じ、省エネタイプの設備、例えば、効率のいいヒートポンプなどの機器の普及に努めるようになる。


●電力利用のピークと谷間


発電施設・設備面から見た問題点は図18から説明できる。このグラフは、ワシントンDC一帯に電力を供給するPotomac Electric Power Companyのもので、86年1月28日、7月8日、87年1月28日の3日間の24時間にわたる電力総需要を表している。

合衆国の、その他の地域のグラフも、それぞれの土地の気候により若干の違いはあるものの、同様のパターンを示している。

図−18

まず、グラフから、24時間の電力需要が平均していないことがわかる。1月の2つのデータは、いずれも朝と夕方に需要のピークを示している。

この2つのピークは地下鉄のラッシュアワーと同じく、朝、家族が出かける準備と、午後、あるいは夕方に帰宅するときの需要である。

では、7月8日のグラフを見てみよう。グラフの線は険しい山型を描いている。86年7月9日付のワシントンポストの天気欄によると7月8日は暑い日で、最低気温27℃、最高気温36℃を記録した。

7月8日のグラフでは、午前4時から8時までのみが、冬と同じようなカーブを示している。午前8時ごろから電力需要のカーブは上昇しはじめ、9時にはもう冬期のピークを越している。カーブはそのまま上昇を続け、ピーク時は午後5時。

冬期のピーク時の3割増の需要である。この24時間のそれぞれの時間帯に電力会社が供給するエネルギーの総量は午前4時の2600万キロワットから午後5時の4700万キロワットと、大きな幅があることがわかる。

冬と夏の電力需要の違いは、エアコンの利用によるのがほとんどである。エアコンは1950年代以前にはほとんど存在しなかったのに、その後の我々の生活の有様を大きく変えてしまった。

夏期には、ワシントンの商業地域のエアコン電力消費は午前中に上昇カーブを描き、11時半からお昼ごろ最大になり、そのまま4時半ごろまで横ばいを続ける。住宅地では午後も上昇カーブは続き、夕方7時ごろにピークを迎える。両方の地域を合わせた電力消費のピークは4〜5時ごろと見られる。


●電力の効率的利用


グラフからいくつかの問題点を洗い出してみよう。冬期は、一日24時間を通して、電力の供給能力上問題となることはない。朝夕のピーク時以外は供給能力には十分余裕がある。

電力が安いエネルギーだった時代には、需要のバラツキをならすことはさして重要な問題ではなかった。ピーク時需要が供給能力を上回る時は、新しい発電所を建設することができたし、増えた能力に対して確実に消費がついてきた。

もちろん消費者は使用しない分の電力供給能力に対しても、間接的に料金を払わされていたが、このコストは目に見えないし、誰も不満を訴えなかった。

問題は、電力会社がピーク時需要に対応するため、積極的に発電所を建設し、電力供給コストを増大させたことでさらに複雑になった。

電力を供給するのに、電力会社は、最もコストがかからず、効率のよい設備をまず使う。需要が増えてくると、これよりコスト高で効率の低い設備をも使わなければならない。

(注) さらに、発電設備のシステムダウンの可能性も考えれば、その分のコストも必要になってくる。

電力料金をはじき出す方法は、従来、これらのコストをひとまとめにして、消費者はコストプラス電力会社の一定の利益分を平均してならした均一料金を支払っていた。

この方法では、いま述べているような新しい時代環境では重大な欠陥がある。均一料金では電力利用のバラツキを平均化しようという努力に対するメリットがない。

それどころか実際には、ピーク時利用を少なくしようとする良心的な消費者に罰金を課して、他の心ない消費者のつけまで払わせるような事がまかり通っている。


●使用時間別料金


均一料金に代る考え方は、使用時間別料金、つまり一日のそれぞれの時間の電力料金によって支払が変ってくるシステムである。

これによると、電力供給コストとの関係がよりダイレクトになってくる。さらに、このシステムでは電力利用ピークの平均化に協力的な消費者へのメリットも生れてくる。

使用時間別料金の考え方は、電話会社が早くから取り入れた考え方である。2〜3時間待てるものなら待って、安い時間帯の電話にしようとほとんどの人が思うに違いない。

今後、さらに電力コストが上がると、均一料金に代って電話料金の様なやり方が主流となるであろう。


●ある実験プログラム


時間別電力料金の実験的デモンストレーションが始まった。そのうち最も大規模なプロジェクトはサンフランシスコと周辺部をカバーするPacific Gas and Electric Company(PG&E)が1984年から始めた実験である。

このプロジェクトはそう複雑なものでなく、月曜から金曜の正午から午後6時を「ピーク時」料金として、それ以外を「非ピーク時」料金とするものである。カリフォルニア公共サービス委員会(California Public Service Commission)が認めたこの実験の電力料金は以下のようである。

      ピーク時料金 非ピーク時料金
 冬期 10セント KW/時 6.5セント KW/時
 夏期 21.6セント KW/時 5.2セント KW/時

夏期料金については特に、非ピーク時料金のメリットが大きく、ピーク時のレートが非常に高いことから、エアコン利用を平均化する有効な手段と思われた。これらの料金に加え、この実験プロジェクトに参加する住民には、時間別料金用のメーター分として月4.5ドルを負担することになった。

標準のメーターだと、取り付けも含めて30〜40ドルのコストですむが、この場合メーターは210〜220ドルの費用がかかるからである。

PG&Eのエリアで、ガスを使う家庭の平均電力消費は一カ月250KW/時で、オール電化の家庭では450〜550KW/時が平均である。

均一料金システムと比べた実験レートの損益分岐点は、メーター使用料も含めて、約350KW/時前後である。それ以上の電力を使う家庭では電力料金は割安となる。

実験は消費者にはかなり好評であった。エネルギー消費を節約すると同時にお金も節約できるこの実験プログラムへの参加を希望する人が多く、1987年には25000世帯が時間別料金サービスを受けている。

市民団体の中には、公共サービス委員会に働きかけて、時間別料金メーターの全世帯への取り付けと、メーター使用料の基本料金への組み込みを要求する団体も出てきた。

これを受けてPG&Eは、翌88年は実験プロジェクト予算ぎりぎりの4500戸に新規にメーターを設置したが、それでも消費者の希望を満たすには程遠い数字だった。


●PEPCOプログラム


 1987年ワシントン地区をカバーするポトマック電力会社(PEPCO)は、図18で示した問題を解決すべく、特別プログラムを開始した。

このプログラムは住宅地の家庭に、一定期間供給能力ぎりぎりのピーク時に、30分あたり13分を越えない時間内で、供給電力を減らす許可を求め、ウイークデイの通常3〜4時間以内のみ、もし6時間を越えた場合は、電力会社に対して罰金を課するシステムとした。

さらにこの電力カットは1年間に15回以上実施しないことと定めた。

プログラムに協力する見返りとして顧客は、電力請求料金について一人あたり35ドルのクレジットが提示された。電力会社はこのクレジットをさらに50ドルに値上げする申請をしたが、この本の執筆時にはまだ委員会で審議中である。

消費者の反応にはまさに目を見張るものがあった。PEPCOはプログラム開始一年目の加入者数を8000、それ以降は1年につき17000世帯と見込んでいた。

1987年の春、プログラムが開始された時点では、この計画はまだコロンビア区公共サービス委員会(District of Columbia Public Service Commission)の認可を受けていなかったので、当然加入者はワシントンDC郊外のメリーランド州に限られていたが、それでも最初の2カ月でメリーランド州の3万世帯が応募した。

PEPCOのエネルギー管理開発部門を率いるマイケル・メーハーは「多くの人達の賛同を得たのは、お金のためだとは思わない。彼等は、理解しているのだと思う。プログラムの目的に賛同して応募してくれたのだ」


●スマートハウスの貢献


これらの試みはおおむね良好なスタートを切ったが、2つの欠点をあげさるを得ない。1つは、導入された方法と技術ではできることが限定されていること。

もう1つは、それぞれの世帯が、コントロールしたり参加したり選択したりするレベルが限られていることである。

サザン・カリフォルニア・エディソン・カンパニーのエネルギー管理テクニカル・サービス部長のブライアン・ブラディによれば「我々に今、欠けているものは、電力会社VS顧客のインターフェイスに関する、信頼のおける経済的な技術である・・」 この問題はスマートハウスの実現によって解決できる。

第一に、スマートハウスで可能になるゾーン温度管理で冷暖房・換気のエネルギー消費量を抑えることができる。家主がコスト低減のためにとる方法の量的・質的な程度は、彼自身がコントロールできる。

さらにスマートハウスのオーナーにとって特別のケース、例えば、家に病人がいる、来客がある、また休暇で家をあけるとかの場合に合わせて、いつでも一時的に調整可能なシステムである。

第二に、ある機械の操作をシフトして、電力料金が最低の時に合わせて自動的にこれらの機器を運転することができる。自動食器洗い機、洗濯機、乾燥機などの大型電気製品は一日のうち、どの時間に作動させてもよい訳だから、スマートハウスのシステムは電力料金の一番安い時にこれらを動かす。

温水器は朝の給湯需要に備え、明け方に作動させる。プールつきの家の場合は水のろ過清掃のため10時間近くフィルターポンプで運転しなくてはならないが、この時間帯も電力料金のレートに合わせて設定できる。

6章の終りで述べたように、ヒートポンプと家庭用エアコンのコンプレッサーも、電力消費のピーク時の運転をコントロールできる。また自動霜取り機能付冷蔵庫も、夏場の何カ月かの間はつく霜の量が増えるが、ほうっておくと冷蔵庫はピーク需要時に霜取り機能を作動させてしまうが、スマートハウスにコントロールさせれば、これも電力料金の低い時間帯に変えることができる。

スマートハウスは、現在できることよりもはるかに広い範囲の機能・能力を包含できる。例えば、電力会社と家庭を結ぶ双方向コミュニケーションリンクの設置もその一例である。

このリンクがあれば、現在電話会社から送ってくる請求書のように、何日のいつというように、またもしかすると、照明、暖房、エアコンなどのカテゴリー別に明細を記述した請求書を受け取るのかもしれない。

その月の電力料金の、日毎の概算金額を、いつでも家庭のTV画面に呼び出して確認ができる。そして毎月15日になると、夫婦がそろってTV画面に表されたその月前半のエアコンの電気代を見て、月の後半はもう少し節約しようか、などと話し合うのことも可能なのである。

それ以外の可能なコスト節約法をあげてみる。

●例えばエアコンの電気代を1日5ドルと決める。指示さえすれば後はスマートハウスがやってくれる。食事時にはダイニングを特に快適にするなどの調整をしつつ、それぞれのゾーンの室温レベルを決めてくれる。

●1カ月の電気代予算を設定してしまう。システムは、もし予算を超過しそうであれば、いつか知らせてくれる。それに基づいてオーナーは次にどういう手段をとるか決定する。

●前月あるいは前年の同じような日と月と比較して、どのように電力コストが管理されているかシステムが知らせてくれる。「家」から話しかけられるのが好き、という向きにはシステムが音声で「おめでとう!32℃の日に5ドル20セントですみました」と伝える。

電力会社と家庭を結ぶコミニュケーションリンクは、また電力会社にとっても、アメリカの家庭で電気がどのように使われているか、現在より詳細で明らかな状況報告を提供してくれる。

現実には、電力会社は電気の使われ方について詳しいところは把握しておらず、単に需要のままに供給して、月末になると請求書を送っているだけだ。大まかな情報だけでも得ようとすると、調査には、かなりの経費が必要となる。

「電力利用リサーチの経費は高いが、スマートハウスのオーナーからOKをもらえれば、家の中でどのように電気が使われるかわかるし、適正な料金設定や効率化の将来計画にどれだけ役に立つか・・・」マイケル・メーハーはコメントする。

電力会社とスマートハウスのコミニュケーションリンクは、さらに、電力の効率利用に関して、次の2点の改良を加えることができる。

まず、システムの荷電流が危険値に達すると、電力会社の方から家の中のある機器について、電気の量の供給を減らすように調整できる。この電力削減の優先順位は前もって定めておいて、スマートハウスのネットワークにしかるべき指示が与えられる。

例えば、家に誰もいない時で、電力会社の供給能力がフル回転している時など、給湯器のお湯をわかすエネルギーは無駄と言えるであろう。

このようなコミニュケーションリンクと電力削減機能があれば、電力会社は発電設備のシステムダウンを引き起こしかねない発電量危険値を容易に調整できる。同様の方法で、システム維持に最低限必要な、また予期しない故障の時に必要な電力を維持できる。

2つめの改良点は、故障や事故など不測の事態に、最も大事な機器への送電を優先するなど、部分的、段階的に供給を回復することが可能になる点である。

既に述べたように、電力供給の段階的な復旧は、電流が戻った時の「inrush」問題の有効な対応策となる。

さらにもう一つスマートハウスによって解決される技術的な問題がある。今日的な環境では、送電線にかかってくる電波障害は、そのまま家の中の電気系統に影響を及ぼしてしまう。

"spike"と呼ばれる電波障害は、雷や重電機器によって電気系統に影響してしまう"backEMF(起電力)"によって引き起こされる。"spike"の電圧は数百ボルトにも及ぶ。

"surge"はspikeに比べ、電圧は低いが、よりながく続く電波障害だが、発電源側の問題で発生する。特に"spike"の場合がひどいが、どちらの場合も、パソコン、テレビ、電子レンジ、ビデオ、その他の家庭用電気機器の半導体をだめにする。

スマートハウスシステムは、送電上で起るこのような不測の事態から家全体を隔離して、家の中の機器を守り、結果的に電力供給サービスの質を向上させる。

風力やソーラー発電など、代替エネルギーの価値を最大限に引き出し、省エネに努めるのもスマートハウスの可能性のひとつである。一般的な家庭の電気の使用総量は、だいたい160〜200アンペア見当である。コンスタントな発電を期待できない代替エネルギーの発電量は2〜30アンペア程度である。

スマートハウスは、この補助的な電力を、家の総電力需要に組み込み、その分電力会社から「買う」電気の量を減らす。また、もし停電など供給電力の方に問題が起これば、自動的に代替エネルギー発電の方にスイッチできる。この際も、前に述べた設備・機器に関する優先順位は守られる。

もう一つスマートハウスの可能性をつけ加えるならば、いま業界での関心を集めているコジェネレーションである。

現在の技術を持ってすれば、燃焼炉(furnace)であると同時に温水ヒーターであるガス機器をつくるのは可能だし、その運転時に生み出される熱を利用して電気をおこす小型のタービンを動かすことも可能だ。

この自家発電電力もスマートハウスのシステムによって、前述のように住宅内で利用される。実験スマートハウス(Laboratory Smart House)でもガス研究所(Gas Research Institute)がスポンサーとなって、プロトタイプのコジェネシステム・機器の実験を行なっている。

現在使われている設備・機器もスマートハウスの機能と同様な働きをすることができる。例えば、タイマー付きサーモスタットの精巧なタイプの製品は、24時間サイクルでセットでき、ひとつのサイクルをウィークデイ用に、もう一つを休日用にと使い分けて、部屋の快適温度を設定することもできる。

このような機器は、かなり高度な機能をもっているが、やはりスマートハウスとは異なってくる。これらの製品は、マニュアルで機械的にセットされる。ユーザーがはじめにセットした時点をすぎると、これらの製品の高度な機能は発揮されず、単なるサーモスタットとして使われるだけである。

またスマートハウスと異なり、これらの製品は他の設備・機器との相互作用がない。「ポイントは全ての技術の統合と相互作用である。」デビット・マックファデンは語る。

「独立して作動するものはなく、全ての相互作用は電気的におこなわれる。ユーザーはシステムにやってもらいたいことを伝えさえすれば、システムは適切なアイテムと機器をコーディネイトして、ユーザーの希望を達成するよう働きかける」

もっと遠い将来の状況を展望して、この章を終えたい。未来のスマートハウスでは超電導技術との関連が重要になってくる。超電導とは、ある物質が極低温では電気抵抗がなくなってしまう性質をいう。

超電導の状態では現在銅線を伝わる間や、どんどん小さくなっているエレクトロニクスのチップを流れる間に失われてしまう電流のロスがなくなる。

超電導現象が最初に発見されたのは1911年であるが、ごく最近まで利用価値を見出されることはなかった。

超電導を達成するには、液体ヘリウムでを金属を絶対零度(マイナス273℃)に2〜3゜近くまで冷却する必要があり難しかった。しかし今では、もっと高い温度で超電導となる新素材が発見され、つくられるようになっている。

スマートハウスプロジェクトのシステム開発部門のエグゼクティブ・ディレクター、ロス.K.ハイツマンによれば「今から3〜30年以内に室温での超電導が可能になり、10〜40年のうちに、銅線と変らないコストで、超電導材料を製造できるような状況が想定できる。

そうなれば電気技師の関与する分野は大きく変ってくる。まず、電線のサイズは非常に小さく、大きな電流を流せるようになる。12ボルトぐらいの電圧で標準的な家庭用電気機器を動かせてしまう。

どんなモーターも軽量化し、コストも安く、効率も良くなる。ファンで冷却する必要もなく、性能も向上する。だが、運転開始時は、かなりの電気を要するので、当然製品のデザインも違ってくるだろう。

モーターの効率が向上すると、より軽量小型の機器が出てくる。最終的には銅に対する需要はなくなって、残るのは1ペニー硬貨ぐらいかもしれない。」

この本の執筆中にも、超電導技術の進歩は日進月歩である。原子力の分野での粒子加速器とか、電力を配分するトランスなど、密閉されたスペースでの高圧電流に関連する分野での超電導の重要性は、もはや異論の余地がないだろう。

超電導がスマートハウスシステム自体に貢献できるのは、まず代替エネルギーの電力を分配するのに必要な電流切り替えシステムを、小さく簡単なものにできる点である。(第5章脚注1参照)

超電導の住宅への導入によって決ってくる電圧は、システムが必要によって振り分け、従来の120ボルト電圧も併存させるであろう。その意味で超電導か従来の電力かは二者択一ではないし、どちらもオールマイティーというわけではない。

スマートハウスの配線システムが設備された家のメリットは、超電導に限らず、将来開発されるかも知れない新技術にも選択的に対応できる点である。

(注)発電プラントの運転にかかるコストは低い方から以下の順になる。
原子力、石炭、低純度の原油、高純度の原油、天然ガス


Last modified: Tue May 14 11:30:00 JST 1996
(c) Dr.Shigeaki Iwashita

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