heating ,Ventilation,and Air-Conditioning

第6章 冷暖房と換気


スマートハウスは、その使い方によって2つの特色がある。ひとつは「watershed(流域)technologies」とも言える一連の技術である。この技術を導入するかしないかによって、結果には大きな違いが出てくる。

2番目は、スマートハウスは、一つ二つでなく沢山の応用がきくタイプの技術革新のカテゴリーに属している、ということである。スマートハウスのインパクトは広範囲に、様々なものにわたっている。


● ケーブルTVとの対比


スマートハウスの将来を考える時、これももう一つの「watershed technology」であり、既に何十年かを経たケーブルTVの歴史を振り返って見るのも有益である。

ケーブルもスマートハウスも、既存のシステムの明らかな欠点−−ケーブルTVに関しては、従来の放送のチャンネル数が限られていること、受信のよくない地域があること。

スマートハウスの場合は第2章で述べた単純化と安全性の問題等、−−に対応するものとして成り立っている。どちらの場合も、最先端と呼ぶより、もはや確率された技術で、その短所を解決することになった。

導入された技術は、取りあえず解決すべき問題を処理してなお、あまりある能力を持つものであった。

ケーブルが60年代の家庭に、技術のメインストリームとして参入した時、予想屋が描いた未来のケーブルTVのシナリオは、現在我々が直面している現実と、大きな違いはないものの、あまりに莫としたものであった。

完全に現実となっている予想もあるが、全く見当はずれの部分もある。おもしろいのは、ケーブルが今、予言者の全く想像しなかったことに、当り前に使われていることである。スマートハウスの将来もこんなものかも知れない。

ケーブルTVの歴史の一面はスマートハウスにもあてはまりそうだ。ケーブルの利用は、何十年も経て、利用法が進化し、まだまだその進化は続いている。

ホームショッピングが主要なケーブルTVの機能として脚光をあびてきたのは、この本の出版の2年前にすぎない。80年代に入ってからのビデオテックス(文字放送)は、失敗に終わったように見えて、実はまだ続いている。

ケーブルは、長い年月にわたっての技術の発展と、消費者の指向の変化に、対応していける柔軟な設備である。スマートハウスも、同様な性質をもち、成長、拡大、そして利用パターンの変化をたどると思われる。

そして、長年にわたる発展と、アプリケーションの変化のプロセスは、スマートハウスの基本的な機能、すなわち、電気、その他の公共サービスの持つ特質を顕わにする。

電気が家庭に入ってから何十年も、その主な利用は照明であったのに、今や、照明よりも、他の電気製品を動かすために使用される電力の方がはるかに多い。


●ゾーン温度管理


ある分野で、スマートハウスは建築家、エンジニア、プランナーが望みながら、従来の配線ではあきらめざるを得なかった家の機能改良を可能にする。暖房、換気、冷房もその範囲に入る。これらの機能はひとまとめにしてHVAC(Hバック)と呼ぶ。

長いこと既存のHVAC技術、−−つけたり、消したり方式で家全体を均一に暖め、換気し、冷やす−−やり方は高くついて無駄が多い、と思われてきた。

家の部屋は、それぞれ時間によって、場所によって、望ましい温度が異なる。ベターな対応として、生活空間をいくつかのゾーンの分け、実際のニーズにそってそれぞれのゾーンを別々に冷暖房、換気する方法があろう。

HVACについて、サーモスタットで温度を上げ下げするくらいの知識しか持ち合わせていない一般人にとって、ゾーン別の冷暖房が、技術の最前線での何十年にもわたる積み重ねを経ていることに気がつかない。

まず1940年代に、実験的なゾーンコントロールシステムがつくられ、性能がテストされた。その結果は興味深い。従来型の家庭用暖房システムでの、夜間のサーモスタットのセットバックと比べて20%の省エネ、夜間にサーモスタットを戻さない場合に比べれば、33%の節約になった。

このような結果に基づき、商業ビルのHVACでは、既にゾーン温度管理は当り前のこととなってきた。しかし、オフィスビルではインテリジェント配線が進行しているのに、住宅ではそれが遅れているだけの理由で、ゾーンHVACが入口のところで、足踏み状態でいるにすぎない。

現在のHVAC設備や機器を住宅用に改良することにほとんど問題はなく、実際、必要な設備の多くはすでに開発され、商品化されている。問題は、ゾーニングで最大限のコスト効率を保証する、優れたホームコントロールシステムがないことである。そしてスマートハウスは、この障害をクリアする答えである。

ゾーンHVACは最初の「実験スマートハウス(Laboratory Smart House)に予定されている設備のひとつであり、そこで新住宅の標準的な機能としての、ゾーン温度管理を組み立てる最適なアプローチが模索され、検討されるだろう。

「スマートハウス開発事業体(Smart House Development Venture)」と契約した技術コンサルタント会社は、スマートハウスの冷暖房の将来像を次のように描き出した。


●スマートハウスの冬の日


「今 午前3時。全ての生き物は眠りについて、スマートハウスのHVACシステムだけが動いている。熱貯蔵タンク(注)の温度を上げると、ヒートポンプが作動し、朝6時にゾーンサーキュレータが始動を開始する準備をしている。

システムは、経験的に家の給湯が7時ごろから本格的に必要となることを知っていて、ウォータータンクの下部も暖められ始めている。これは先週のウォータータンクの流れをモニターしてわかったことだ。

もしこのパターンが変われば、タンクの点火のパターンもそれにつれて変わってくる。タンクの上部の電気抵抗ヒーター(electric resistant heater)が点火されるのは6時15分である。」

「8時15分になった。最後に家を出た家族は、システムに帰宅予定を知らさずに家を出た。ということは、今日は「普通」の日だ、とシステムは考える。家人は夕方6時ごろ帰宅。その直前まで熱貯蔵タンクからの供給は必要ない。」

「夕方5時30分になり、一階のゾーンは活気づき始める。個々のファンコイルユニットが、熱貯蔵タンクから熱を取り出し、一階のゾーンサーキュレータを通じて部屋の最適温度のレートに合わせて、暖房を始める。

それぞれの部屋の最適温度は、最近の部屋の利用状況に基く、その部屋の重要性を考慮に入れて決定される。さらに最適温度は、実際の大気温度と、快適な温度のバランス、また計測された湿度、あるいはここ最近の温度の変化などで微妙に変わってくる。

今日の場合、温度変化の記録は、壁が空気に比べてずいぶん冷えているので、普段より暖かめの温度で暖房する必要がある。」

「6時5分、最初の家人が帰ってくる。一階の暖房は既に準備万端。二階のゾーンは、快適温度より若干低めの温度設定と維持に向かって、システムが動き始めている。しかし、ゲストルームだけは例外である。ここはもう一週間以上、誰も入ってこないからだ。」

「7時30分に、息子の部屋の温度は適温に上がる。システムは息子が8時に部屋に上がってくるのを知っているのである。同じく主寝室は、9時30分に適温になる。しかし今夜は誰かが9時10分に主寝室にやってきて、一分以上そこにいたため、システムはできる限りの速さで、部屋の温度を上げた。」

「ただ今10時半、照明もテレビも消えて、階下には誰もいないことを知り、システムは一階ゾーンの夜間セットバックを開始した。二階の夜間セットバックは部屋の灯りが全て消えてから、となる。」


●従来型の設備を調整する


家庭用暖房システムには次の4つのタイプがある。 「温水暖房(Hydronic systems)」 水を暖め、密封した管を通して、baseboard(幅木?)暖房ユニットなどの室内暖房設備に行きわたらせる。

「送風暖房(Forced-air system)」 送風機を使って、熱源(furnace)やヒートポンプからの温風を循環させる。温風はダクトを経由して家の中に配分される。 「輻射熱暖房(Radiant System)」は、石膏天井(gypsum ceilings)のパネルなどの面を暖め、部屋全体の温度を適温にする。

「壁下電気ヒーター(Baseboard electronic heaters)」は、電気抵抗ユニットを利用して、電流が通ると熱くなる、という方法で放射熱を発して周囲の空気を暖める。

これらのどのシステムを使ってもセントラル冷暖房を設置することは可能である。送風暖房の場合は冷暖別のダクトをつける必要はない。冬期に温風を吹き出すダクトが、夏期には冷風の吹き出し口となる。冷房の場合はコールドコイル、暖房の場合はヒーターを経由して空気が送られる。

スマートハウスには、この4つのタイプのどの暖房でも、またそれに加えて冷房も採用して、ゾーン冷暖房を行うことができる。

温水、送風暖房の場合、スマートハウスネットワークの機能は、ヒーターの燃焼温度の上げ下げ、あるいは温水の流れをコントロールするバルブやダンパーを操作することによって、それぞれのゾーンや部屋を暖房することになる。

輻射熱暖房、電気ヒーターの場合は、スマートハウスはそれぞれの暖房ユニットを、場所別、温度別にコントロールしてセットする役割をする。

ゾーン温度管理を実行するためには、温水、送風暖房では現在の燃焼炉(furnace)、ボイラー、ポンプの調節が必要となってくる。これらの設備のほとんどは今、エンジニアが言うところの単一能力機器(single-capacity device) である。

オンとオフの2つのセッティングしかない。オンの場合はある一定のレベル、スピードで運転されるのみである。ゾーン温度管理システムで使われるfurnace、ボイラーは「変動燃焼率(variable firing rate)」即ち、人が、ガスストーブのバーナーの炎を調節するように、送風される温風や温水を作るのに必要な量の熱を、増減することが可能でなければいけない。

変動燃焼率furnaceやボイラーは、需要は多くないが、既に出まわっている。温水、送風のゾーン暖房が需要を刺激して、さらに改良された製品が、低価格で提供されることを待ちたい。

コーディネートされたコントロールの、実際的なシステムなり方法が欠如していたことが、ゾーン方式のネックとなっていた。スマートハウスはこれまで欠落していた能力に着目する。

変動燃焼のfurnace、ボイラー、また変動的なセッティングのバルブやダンパーが全てそろって、スマートハウスはシステム全体の全ての機器の操作をコーディネートし、24時間体制でそれぞれの機器に、いつ、どうやって、それぞれのゾーンで、望まれる結果を達成するべく作動すべきか伝えるのである。

スマートハウスは、個々の部屋、あるいはゾーンのセンサーから、配電センターと主な機器をつなぐネットワークインターフェイスに情報を伝達する。(図17の左下を参照)

センサーから受け取った情報に基づいて、ネットワークインターフェイスは、furnaceや冷却装置に、どれくらいのレベルで作動すべきか、あるいはどの程度バルブやダンパーを開けてやるか伝えて、24時間どんな時にも、それぞれのゾーンで様々な温度達成を可能にする。

エンジニアによると、最も高度なシステムは、各部屋、ゾーンに温度や湿度、あるいは人間がいるかいないかを関知するセンサーがあって、また家の外には、外の状況を知らせるセンサーを必要とする。前述のシナリオは、これら全ての設備が完備されていることが前提とされている。

HVACシステムは、住む人の要求や希望を伝える簡単な方法を加えることによって完成する。既に述べたような様々なタイプのユーザーコントロール設備が開発され、ラボやデモンストレーションハウスで試用されている。

スマートハウス機能やスマートハウスユーザーコントロールに関する広範囲のサンプリングはデモンストレーションハウス計画の大きな目的である。

スマートハウスは冷暖房にまた別のメリットをもたらす。これまで述べた様々な設備のうち、ヒートポンプやエアコンは大事な要素を共有している。コンプレッサーである。

コンプレッサーは大量に電力を消耗する。これらのコンプレッサーを内蔵する機器を、ミニマムコストで効率よく運転するよう、作動のタイミングを管理すれば、省エネと省コストは、容易に達成されよう。


● システムの柔軟性


 そこまでレベルアップしなくても、ある程度の効率レベルでいい場合には、もっとシンプルな設備で充分である。例えば、人間の存在を感知するセンサーは必要でないかもしれない。しかし、セキュリティ面とか、後章で述べるお年寄り、身障者対応の機能としては大事かもしれない。

これらのケースも、ゾーン温度システムのなかに電気的に解決され、組み込まれていく。このことから、スマートハウスの利用の3つの特色が明らかになる。ひとつは、基本システムが整っていれば、機能アップのための様々な機器は、後からどんどん積み重ねて追加できること。

オーナーはどの機能をいつ導入するか主体性をもって決断できる。第2に、選択された機器や、一連の設備は、それぞれ違った利用法や応用ができ、そのアプリケーションによって資金計画ができること。

最後にスマートハウスネットワークは、どの機種の製品や機器にも対応できるので、将来的に、新しい技術の導入、あるいは、時代、ニーズ、興味や好みの変化に柔軟に対応していける。

(注)熱貯蔵タンクは、お湯を蓄える大型タンクで、需要に応じて、暖房システムに温水を循環させる。時間帯によって異なる電力料金をうまく利用するために、タンクの水は電力料金のもっとも安い時間に暖められる。


Last modified: Tue May 14 11:30:00 JST 1996
(c) Dr.Shigeaki Iwashita

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