How Homes Are Wired Today

第4章 従来型住宅の配線


現在、家庭に電力を配給する配線システムには数多くのタイプがある。さらに、ガスをエネルギー源として使用する家庭ではガスを機器につなぐ別の配管システムが必要である。

個々の家庭に電力を引き込む線は普通1本の電線ではなく3本の電線からなる。うち2本はそれぞれ、交流60サイクル、120ボルトの電流が流れ、2本合わせて240ボルトがドライヤー、レンジ、オーブン、温水器、エアコンなどの電気製品に通常必要とされる。もちろん、電線1本あたりの120ボルトも単独で照明や小容量の機器への電力を供給する。

3本めの電線は「中立線(neutral)」と呼ばれ、個々の住宅には電気を送らず、単に住宅から本線への回路を完成させる役割をもつ。家の中で照明をつけると、120ボルトの支線を通って電流は電灯に流れ、中立線を通って本線へ戻ることで回路を完成する。

引き込み線が家屋に入るとまず図3に示すように、配電センターへとつながる。現在の住宅では、配電センターは単にヒューズボックスかブレーカー盤を指すにすぎない。

図−3

ここから回路は家の中をめぐり、各部屋のアウトレットにつながる。それぞれの回路は配電センターで一本のヒューズかブレーカーに対応し240ボルトを必要とする電気製品は配電センターの大容量ヒューズやブレーカーから機器に直接、大容量線を通じて接続されている。

図3では、15アンペアブレーカー3つを備えた配電センターを示す。それぞれのサーキットブレーカーから電流は、アウトレット、スイッチ、機器、備品などへブランチ回路(branch circuit)で分配される。ブランチ回路は、機器やスイッチが使用されると、必要電力がそのブランチのサーキットブレーカー荷電流に付加される仕組みになっている。

まず上のサーキットブレーカーから出るブランチを見てみよう。ライトがこのブランチのアウトレットのひとつにプラグされている。ライトを点灯すると、電球が輝き、灯がともる。

この当り前のプロセスは、「inrush」と呼ばれる電気の性質をよく表している。ライトをオンしてから1000分の何秒かの間で消費される電力は、その後の照明に費やされる電力よりはるかに大きい。

このことは他の電気製品や機器についても同様である。この「inrush」容量は照明やモーターの場合特に大きく、テレビやビデオなどの機器では比較的小さい。電流の「inrush」は電気製品や機器への負担が大きく、例えば、電球はスイッチをつけた時に切れてしまうことが多いことからも説明できよう。

「inrush」問題は、さらに広い範囲に影響を及ぼす。まず、停電後に全電力を復旧する上でややこしい事態を招く。停電が起こっても、ほとんどの人は、ついていた照明や機器のスイッチを切って歩くことはしない。

さらに、電力がストップしている時間が長くなると、フリーザー、ヒーター、温水器など、復旧時に同時に電力を必要とする機器が増えてくる。

実際に、家の中の最も大切な機能のためだけなら、増えてくる分を見込んだ電力の復旧も、比較的迅速に行えるかもしれないが、ほとんどのユーティリティはそのようなオプションを実行する術を持たない。

電力を回復しようとして、重大な「inrush」状態を同時に引きおこす、パワー全開に向けて邁進するのみである。

家庭と電力会社とのコミュニケーションリンクがあれば、停電後に電力を段階的に復旧することができる。電力会社の機能回復ペースに合わせて電力が段階的に回復され、最も大切な機器への電力供給から始めて、徐々にパワー全開へと復旧する。

都市化の進んだアメリカでは、電力エネルギーの需要は増大を続け、現在の発電能力へのプレッシャー、さらに重大な社会的影響を引きおこしている。電力会社、市民ともに電力プラント建設に伴う問題を回避したいと願っている。

このような状況下では、停電後の厳しい「inrush」問題を解決することが、電力プラントの建設の是非を問ううえで大きな意味を持ってくるに違いない。

では次に図3の2番目のブランチに話を移そう。このブランチはキッチンのアウトレットに接続している。今、夕食の準備でフライヤーと電気フライパンを使用中だ。トーストを2枚トースターに入れる。

トースターのレバーを押したとたん、サーキットブーレーカーがとぶ。これは、配線システムの基本的な性質を表す事態である。前に述べたようにライトや機器がプラグされ、使用されると、ブランチのヘッドにあるヒューズやサーキットブレーカーを流れる荷電流に付加される。

回路がオーバーロードになると、ヒューズがとんで、サーキットブレーカーが遮断される。問題となったライトや機器だけではなく、ブランチに接続する全ての機器への電力が切れてしまう。

3番目のブランチには、地下のレクリエーションルームへの配線がある。この部屋の一隅には父親のワークベンチがあり、趣味の木工に精を出している。このワークベンチには蛍光灯が備えつけられており、蛍光灯の拡散する光は、この種の作業の照明には最適である。

しかし、60サイクルの家庭用電流では、蛍光灯が「フリッカー」を起こし、時々、作業中の父親の目を痛める。照明をより大きなサイクル率(例えば400ヘルツ[サイクル/秒])の電流を流せば問題は解決する。

あるいは、この照明に交流(AC)ではなく直流(DC)の電流を使ってもいい。しかし、父親にその選択の余地はない。ただ、家の唯一の電気を使うしかないのである。

 レクリエーションルームのコーナーには、テレビが置かれている。いいテレビではあるが、リビングルームのテレビと同じく、映りが良くない。

時折、画面に横線が表れ、ロールする。また、エアコンをつけたりすると、静電気のチラチラした線が画面を汚す。このチラつきを直す方法はないように思える。

テレビ画面の線はしばしば、家の他のところでモーターを使用している際に起こる。モーターは、配線システムや、テレビ内部にもフィードバックし、そのサイクルパターンが、テレビをつけている電力のサイクルパターンと若干位相が異なるために起こる。このよく起こる現象は電磁干渉、略してEMIと呼ばれるものである。

静電気のラインは、モーターの発電子回転による無線周波数妨害によって起こる。これは、無線周波数干渉、RFIと言われる。これらの妨害電波は、低パワーの無線信号として、空気中を通って伝波し、家の配線システムがアンテナの役目をして、この信号を捕らえ、テレビ受像機に送り込む。

その結果、スポーツファンならご存知のように、横線や静電気の線となって、フットボールの試合の大事なところを邪魔してしまうのである。

レクリエーションルームの一方では、子供が靴をぬいで遊んでいる。いけないと言われいるが、子供たちは部屋の中で水鉄砲で遊んでいて、体も、服も、足もびしょぬれだ。

部屋の隅にはライトがあって、そのコードはソファの足で削られて、一部電線がむき出しになっている。ライトは点いていないが、それでも、コードはサーキットブレーカーからスイッチまで直接つながる”生きた”電気のブランチである。

もし子供がこのコードの露出した電線を誤って踏みつけると、回線に触れ、感電してしまう。この事故は、サーキットブレーカーをオーバーロードするような事にはならず、ブレーカーは事故に関わりなく、その前も後も、同じように電力を供給する役割を果たし続ける。

統計的に言って、米国では、家庭内の感電事故は、けがや死亡のトップの原因とはなっていないが、現在の配線システムが使用される限り、安全管理エンジニアや、法規をつかさどる役人がどんなに努力しようと、残念ながら、毎年毎年、少ないとは言え無残な犠牲は後を断たない。

先程述べたような”普通でない状況”が、悪いのだとされるむきもあろう。しかし「マーフィの法則」が語るように”普通でない事”は、常に、どこかの誰かに起こるのである。

(筆者の個人的経験からの事例をあげておくと、私と兄が子供のころ、はさみで、消えているライトのコードを切ろうとして、兄がはさみを振り回し、激しく感電した。彼がひどい火傷やあるいは死に至らなかったのはおそらく、このいたずらに取りかかる前に、我々が、しゃぼん玉遊びをしていなっかたという偶然によるものだろう。)

これまで述べてきたのは家庭の基本的エネルギーシステムである。暖房ユニット、温水器、レンジ、その他のガス機器にガスを供給する配管は、また別のエネルギーシステムを形成している。

このガス配管システムは燃焼炉(furnace)やサーモスタットを除いて、家の中での電気やコミュニケーションネットと、ほとんど関連なく敷設されている。今のコミュニケーションシステムの簡単な機能のひとつ、つまり、モニターと機能不良の安全チェックでさえも利用されていない。

電力に加えて、電話回線も、今や、ほとんどどこの家庭でも利用される公共サービスであり、ケーブルTVを設置している家庭も半分以上ある。これらのサービスは、それぞれ電気の配線システムとはまた別の配線システムを通じて供給され、おそらくは、電気工事の配線とは違う人達によって施工されているであろう。

最近は、セキュリティアラームサービスを導入する家庭も増えてきている。このアラームサービスもまた、別の工事店で別料金で、施工される。もし、別工事、別配線が必要でなければ、このサービスももっと安価で、より多くの人が利用するであろう。

3つの大きなシステム−−電気、電話、ケーブルTV−−のアウトレットの位置も、居住期間が長くなり、物の配置を変えたりしていると、便利さとは程遠い、といった事態もしばしば起こる。

電話を置きたい、と思っている場所に電気のプラグがある、などとイライラしている住人にとって、どのアウトレットにどのプラグを差し込んでもいい、としたら夢のような話である。

この夢物語は、デビィド・マクファデンはじめ、スマートハウス実現への前途に何の技術的障害もないと、考える人々にとっては、なんら夢物語ではないのである。


Last modified: Tue May 14 11:30:00 JST 1996
(c) Dr.Shigeaki Iwashita

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