Breaking Down the Barriers

第3章 障害の克服


一般に、新しい製品や技術のために、市場や需要を結びつける人といった、また資産を持った人、リスクをいとわない人といった企業家は、製品を作り、それを市場に出していくといったことが容易にできる。

スマートハウスの場合、技術の有用性や、消費者の受容性を、問題とするのは難しい。商品化を考えた当初から、その歩んできた道は、いまでもそうであるが、多くのほとんどの企業が、解決しがたいものとして考えた障害で悩まされてきた。

スマートハウスがこれらを解決する能力を持っているとするならば、なぜ大会社が数年以前にこれらを製造し販売し始めなかったのだろうか。

スマートハウスが単一商品でないというのが、その回答である。それは最大能力と効力をそれらが発揮するよう共通なプランに基づいて開発、設計された非常に多くの製品から成り立っている。

どんな会社も、事実大きな会社は全く、そのシステムをデザインし、ネットワークのハードウェア、コミュニケーションのハードウェア、ソフトウェア、そしてネットワークとコミュニケーションできる広範な機器を製造するといった立場にはなかった。

かりにこうしたケースでは、なぜ多くの会社はスマートハウスを生み出す作業を一緒にできないのだろうか。第1は、この大きなしかも変化の度合の高いオーケストラの指揮者としてふるまい、ショーを動かす人に関しての疑問である。事実、指揮者の役割を志願する人は現れなかった。

ではなぜそうではないのか。この問題はアメリカ人のポリシーとか慣習とか言った深い海にわれわれを落としてしまう。

アメリカは商業や工業における統合化の方策に反対であるといった点で、主要工業国の中では唯一の国である。他の多くの国々と対照的にわれわれの個別性の高い商業世界では、複数の企業にわたる事業をうまくまとめるといった事業は、現代的慣習を実際に経験していない。

われわれの冒険的事業へのアプローチにもそれは反映されていないし、そこにはうやまうべき先例とか、知識、あるいは方法論が全く欠けている。

もちろんこうしたアメリカでのビジネスの特質といったものの下には、強力な法律的バックボーンがあり、それはまさにわれわれの反トラスト法である。

事実、水平的にあるいは垂直的にビジネスを統合化するといった、貴重な経験を持ったグループがあるとすると、彼らはこの地域でそのための知識や技量を得るためには、監獄である時間過ごすといった罰を受けるに違いない。

疑問に対する答は、それゆえ明解である。どんな企業もスマートハウスを生み出すことはできなかった。それを試みた、二あるいはそれ以上の企業は、研究によりも、法律家にもっとお金を使うべきであったに違いない。

そしてこれですら小さな抵抗に過ぎなかったはずだ。スマートハウスの考え方に大きな関心と、大きな信頼を持った会社ならば、こうしたことにもかかわらず、電話をつなぐことでさえ安全でないということを考えたり、他の企業と共通な努力について討論してほしい。

最終的には、これらすべての問題を解決させ、スマートハウスのネットワークと、コミュニケーション機器、装置からなる調整されたシステムを設計し製造することが何らかの方法で可能であると考えたい。

恐ろしいほどの努力と投資を行って、建築業者が現行のやり方を捨て、新しい住宅にこのシステムを搭載してくれるといったことに、どのような確信があるのだろうか。

住宅建設のように地域分散している産業が少ないというのもより問題を難しくさせている。住宅建設業者は一般的に自分で思考し行動できる立場にあり、彼らはいつもそうした行動をすることがよく知られている。

消費者の圧力が全体的に分散した産業のほとんどのメンバーをある方向に持っていくには、彼らが特別な興味をそれに持ってない限り長い時間が必要である。


● ディビッド・マックファディンの果たした役割


幸いなことに、こうしたすべての問題を処理するのに戦略的に有利な立場にいる合衆国の数少ない人の1人が、インテリジェントハウスのアイデアに魅せられてしまった。

その人は、ディビッド・J・マックファディン(Dabid J.MacFadyen)で、全米ホームビルダー協会(NAHB)の研究センター(National Research Center)の会長であった。

マックファディンはスマートハウス計画を企画し、研究センターを拠点として、その道程の中に立ちはだかっている多くの複雑で新奇な問題を経て見事に事を進めた。

1970年代、マックファディンはマサチューセッツ州ケンブリッジのコンサルタント会社、T&E(Technology& Economics)社の社長をしていた。

T&E社の大きなクライアントには、NASAや住宅都市開発省(Department  of Housing and Urban Development)も含まれていた。こうしたクライアントと行った業務を通して、マックファディンはフラット・ケーブルと呼ばれる新しい技術に興味を持つようになった。

これは商業ビルのカーペットの下に直接敷設することができ、新設の配線工事や後々のテナントが移動のために行うであろう配線の変更を容易にしている。

NEC(全米電気規約)は、安全な配線方式としてはこのフラット・ケーブルを認めず、その使用を事実上妨げた。マックファディンは、フラット・ケーブルが安全であることを確信していた。

数年の後、彼の努力と固執でこの障害を取り除くことができた。フラット・ケーブルが安全であるとした規約作成者と、その使用のための条項が規約に加えられたことに、彼は十分満足した。

1980年代の始めの頃、マックファディンはNAHBの研究センター(NRC)に席を移し、1984年にはセンターの所長になった。もう1つの配線に関しての問題が彼の中にあった−それがスマートハウスである。

マックファディンはオークリッジ国立研究所(Oak Ridge NationalLaboratory)の上級コンサルタント、ロバート・G・エドワードと技術的問題について論じ合った。

マックファディンの質問に対して、エドワードは、住宅の配線は単純化できるし、もっと安全なもので作ることができると彼は言った。それ以来、エドワードは、スマートハウスの技術開発の鍵をにぎる人物となった。

NAHB(全米ホームビルダー協会)は、全世界で産業団体としては最も大きなものの1つである。143,000社の会員があり、アメリカ合衆国の約90%の住宅と85%の軽構造の商業ビルを担っている住宅建設業者45,000社もこの中に含まれている。

その他の会員には、建築家、建設業者、製造会社、さらに住宅流通業者も含まれている。この研究センターはNAHBの子会社によって所有されている。

マックファディンが研究センターの所長になった年、難問の他の部分も解決され始めている。1984年、商務省の生産性技術革新局と議会の両者は、アメリカの厳密な反トラスト法が、時々国際通商上不利な立場にわれわれを置くよう働いているかとどうかといった疑問を考え始めた。

専門家は個別の企業では開発できないような製品の開発や、ある産業の構成員の技術的知識の水準を向上するために、調査と開発を結びつけるのを妨げているといった点で、反トラスト法の影響力に特別な関心を持った。

スマートハウスは、専門家が考えていた、そして現在の法律が事実上克服できない障害となっていることに関して、まさに重要で建設的なプロジェクトであった。

マックファディンは、商務省の副長官であるE・ブルース・メリフィールド博士や、生産性技術革新局の局長、さらにこの問題を処理する法律の作成にかかわっている商務省の他の局と多くの時間を費やした。

10月には議会は1984年共同研究法(National Cooperative Research Act of 1984)を通過させ、レーガン大統領もこれに署名した。

この法律は、アメリカ経済を刺激することができ、かつ世界市場で競争力のある製品開発のための製造企業間の努力を結果する道に立ちはだかっている反トラスト法の制限を緩和した。

1つの企業では実現化が本質的に困難な研究開発努力を遂行するため、コンソーシアムの結成を、この法律にもとづいて司法省に請求できる。そのコンソーシアムとプロジェクトが認可されれば、反トラスト法での義務を軽減する法律のガイドラインにもとづいて、1歩先に進められる。

この法律が議会を通過するとただちにマックファディンは行動に入った。1984年11月、NAHBの研究センターは、ワシントン市でスマートハウスの考え方についての会議を開催した。

その反応は強く、それまで抑圧されてきた興味を反映していた。参加者には100を超える製造会社の代表や、電気、ガス設備、通商団体、エネルギー、通信と関連した政府機関、そして住宅建設産業が含まれていた。

大企業の多くは直接的協力を申し出た。スマートハウス計画が創設され、この新しい法律のもとに作られた、最初の研究開発コンソーシアムとなった。

プロジェクトはスマートハウスシステムで必要となるハードウェアのすべての主要タイプのための、またコミュニケーションチップを搭載するために設計しなおさなければならないすべての主要機器のためのいくつかの製造会社の参加を求めた。

こうした製造企業は、NAHBの研究センターが成果のまとめ役となるのを喜んで受け入れた。1987年までには、40社以上の主要製造会社がプロジェクトに参加し、運営委員会のメンバーとなった。

これらの会社の多くは、コンソーシアムが作成した一般的ガイドラインにもとづいて行われる特定製品の開発のための研究、ライセンス協定に署名した。

電気、ガス、通信会社や通商団体のような企業として、スマートハウスと関連した製品の製造は行わないが、スマートハウスの役割に強い興味を持っている企業などその他25社は、諮問委員会に参加した。

電力研究所とガス研究所といった2つの大きな産業研究機関は、スポンサーとして計画に参加した。スマートハウスの参加企業機関のリストは9章に示している。

同時にマックファディンはNAHBを通じて住宅産業のプロジェクトへの協力を依頼した。住宅産業自身のための研究開発目的からきているスマートハウスのコンソーシアムへの協力として、導入保証を速やかにまた熱心に行った。

NAHBはスマートハウス計画の最初の段階で、検証のための計画を行うことを決定した。全国で最大規模の多くを含めた300社程の住宅建設業者が、システムが可能になったらただちに住宅にスマートハウス・ネットワークを設置する同意書に署名した。


Last modified: Tue May 14 11:30:00 JST 1996
(c) Dr.Shigeaki Iwashita

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