The Wire Mire

第2章 配線の泥沼


トーマス・エジソンの時以来、住宅の配線で行われてきたことは、壁の中をくねくねと多くの配線を走らせるといったもので基本的には変わっていない。

そしてますます多くの多様な機器がつけられるようになり、その結果、壁の両面にはとどまりのないからんだスパゲティーといったものになってしまっている。

この20年間でこのどろ沼は確実に増大してきている。ちょうど20年前に1台の電話機を持つようになった住宅は、今では3台、4台といったありさまである。

さらに全く新しい配線システムを必要とするセキュリティーシステムを設置している住宅もある。20年前ではごくわずかの家庭でしかみられなかったケーブルテレビも、今では半数の家庭にあるようになった。

こうした機器のほとんどは、単にこれまでの配線につけられるといっただけでなく、チャイムやサーモスタットのように新たな配線を必要とするようになっている。

さらにこの間に、個々の機器の運転を1日の時間ごとの電力料金をもとにバランスよく調整するといった電力ユーティリティーができあがっている。これは住宅分野における新しいエレクトロニクス技術によって、容易に実現できるようになった。

またガス供給事業者は、住宅のいろいろな場所にプラグインできる新しい可搬機器の開発を進めており、そのアウトレットは電子制御可能なフレキシブル・ガス管と結ばれている。

こうした配線のどろ沼は、新たな配線の敷設やメンテナンスの費用を増大させており、ますます今日の配線をだめにしている。建設業者はこうした多様な配線システムを敷設するため、異なった二つ以上の配線業者を呼ばなければならず、当然こうした二重になる費用は住宅の価格に含まれることになる。

しかもそのための努力と支出の結果は、何等価値を持ったものではないし、アウトレットにしても欲しい所についているとは思えない。また部屋を模様替えすると、アウトレットのないテーブルに電話が移されたり、アウトレットのない隅にステレオが置かれてしまったたりする。 こうした方法で配線が行われているのは、必ずしも現代の技術の限界から起因しているものではない。これまで到達した部分の限界を示しているものであり、スマートハウスの実現によって、現代技術のいくつかのシーズは、こうした問題を解決できる分野に確実に入ってくるに違いない。

配線のうづまきは数種類の配線を一つにまとめたケーブルに置き換えられるだろう。それらにはTVの同軸ケーブルも含まれるし、電源の配線、電話や他の低電圧機器のための配線、さらにデジタル信号の搬送線も含まれる。このケーブルは住宅の新築の際に敷設されることになる。

さまざまな機器に対応できるユニバーサル・アウトレットが住宅全体に設置されることになるだろう。機器のスイッチが入ったり使用開始された時、住宅の配線システムの半導体チップが、機器に搭載されている半導体チップと通信し適切な回路に接続してくれる。


●電気的安全性の問題


今日の配線と関連したもう一つの問題は、電気の安全性に関してのものである。そうした考え、これに関しての注意、努力といったものの多くは住宅の電気配線や電気製品の危険性をいかに減少させるかということである。

こうした努力はUL(保険業者団体の研究所)やNFPA(全米防火協会)のNECC(全米電気規約協会)などの活動グループによって長期にわたって規約化されてきた。NECCは電気安全のガイドラインとして広く受け入れられ遵守されているNEC(全米電気規約)の維持更新を行っている。

最近の2つの重要な革新は、アース付きの三線を採用したことと、異常アース回路遮断器(Ground-Fault CircuitInterrupters= GFIs)の導入である。 

多くの人は洗濯機などが、近くの水道管に線やクランプでつながれているのを思い出すことができるだろう。第二次世界大戦後、アース接続用の三番目の差込みを持った、三本足プラグとアウトレットが使われるようになった。

1956年NEC規約は、こうしたプラグとコンセントを洗濯スペースや渡り廊下、ガレージにつけるよう要求した、そして1959年には外部のアウトレットやキッチンシンク回り、地下室、作業場、オープンポーチのアウトレットまで含めるようその範囲は拡大した。

しかしながら三本足プラグは、アースのない二口コンセントでも使うことができる。規約がアースを取るべきだとした、ほとんどの機器や電動工具において、1984年までにはそれが実現していない。

異常アース遮断器は、安全性革新の二番目に重要なものである。GFIsは、人間のような導体によって回路からアースに直接電流が流れた時に回路を遮断する機器である。GFIsを落とすのに必要な電流は、回路ブレーカーで落としたり、フューズを切ったりするのに必要なものより、ごく少なくなっている。

皮膚が濡れている時、人間の電導抵抗は、乾いた状態の1%というように、小さくなってしまう。1971年に NEC規約は、水泳プールのまわりや外部のコンセントにGFIsを設置するよう改正された。

その間に、ヘアドライヤー、シェーバー、ヘアカーラー、ウォーターピックというように様々なものが絶え間なく住宅に入ってきて、電気製品が浴室でもしばしば使われるようになった。

1975年には規約は再び改正され、浴室のすべてのコンセントにGFIsを求めるようになった。

1987年にも再び改正され、地下室の少なくとも1つのコンセントにGFIをつけるように、そして、シンクの6フィート(180cm)以内で、ワークトップのレベルから上のキッチンのコンセントに、GFIsを要求するようになった。

GFIsに関して問題は3つある。その1つは、それらが正常に作動しているかどうかの確認をするために、月に1度定期的に切ってみなければならないことである。多くの人は面倒がって行っていない。

2つ目は、GFIsが理由がわからないまま落ちることがあるということである。3番目はGFIsが安全でない欠陥のある方式でないかと技術的に問われているということである。

こうした問題にもかかわらず、1976年の開発委員会レポートは、”危険性の高いアウトレットに異常アースを防止するようにすることで、毎年数百人の生命を助けることができる”として、GFIsを設置するよう示している。

GFIsの状況と開発委員会のコメントは、電気の安全性の重要さと、それに対処するために最善をつくしている彼等の不満を反映している。1976年の家庭用品安全委員会(CPSC)レポートは、アメリカで毎年1500件の偶発的な電気事故が起きていると推定している。

CPSCは1983年には、家庭用品による電気的ショックで、負傷したりやけどをして救急機関で処置を受けた人は、4000人以上であったと推測した。

さらにこれに民間医療機関での知られていない人数が加えられるはずだ。またCPSCの別な資料によると1982年、住宅で発生した火災192,000件のうち28%が、電気的発火が原因となっていると推定している。

こうした火災は、直接1000人の死者と1300人の負傷者を生んだ。財産的な損失は9億2300万ドルにのぼると見積られた。

死傷者は今日のシステムの2つの技術的欠陥からもたらされたものである。第1には配線ネットワークのすべての枝や葉脈までもがいつも活性化していることである。

電力はいつもすべてのアウトレットに供給されているし、照明や機器のスイッチが入れられた時、さらに切られた時でさえアウトレットからすべてのコードには電気が流れている。

そのためアウトレットに金属性の棒を差し込んで子供は、当然ショックを受けることになる。第2の問題は、適正に履行されないかも知れない何かが接続された時、フューズが切れたり、回路ブレイカーが落ちたりする前に、火災や死亡事故が起こる可能性もあるということである。

こうした問題はどちらも、現代的電子技術が配線システムに組み込まれているならば、容易に解決の糸口が見えてくる。何がそこに要求されるかを次に示すことにする。

・機器がプラグが差し込まれたり、スイッチが入れられたりするまでは、アウトレットに電流は流されるべきではない。何もプラグが差し込まれない場合や、スイッチが入ってない場合は、アウトレットは死んだ状態になっている。

・プラグが差し込まれたり、スイッチオンされたりするものは、配線システムとコミュニケーションが可能であるべきである。

・機器のプラグが差し込まれたり、スイッチオンになっている間は、機器のチップや配線システムのチップは、連続的コミュニケーションを続けるべきである。

そうすれば、機器の作動状態の変化によって、アウトレットへの電気を切るか切らないかといったコミュニケーションがシステムと行うことがきる。

この種の要求は現代のエレクトロニクス技術と結びつけられ、そしてスマートハウスの実現とともに、最終的には住宅に入ってくることになる。


●ホームオートメーションとネットワーク


この間、すでに述べてきたように、2つ目の圧力が住宅の配線システムに影響を及ぼすようになってきた。−それは単純だがエレクトロニクスの進歩といった強力な力である。

スマートハウスの実現は、直接的には半導体とマイクロプロセッサ、それはチップであるが、それらの能力の拡大と価格の低減とに関連したものである。半導体は通信機能と(あるいは)コントロール機能を提供してくれる。

半導体の一種であるマイクロプロセッサは、計算機能を提供してくれる。両者とも実際に世界を変えつつあるし、最終的にも、今日のこうしたホームエレクトロニクスを無視しての暮しは考えられない。

1980年代の初めに、半導体とマイクロプロセッサは、多くの製品や機器やシステムに、コントロールと限定された知恵を提供し始めた。これにはホームエンターテイメント製品や、電子レンジ、給湯システム、暖房、換気、エアコンシステムも含まれている。

同じ頃、半導体やマイクロプロセッサは様々な製品や機器やシステムを接続させるためのネットワークにだんだんと使われてきた。商業の分野では、その流れには”インテリジェント・ビル”として紹介されているものも含まれている。

こうした建物には、建設時にインテリジェントな配線システムが敷設され、通信システムとアクセスするすべてのネットワークと、今後の要求にも対処できる能力が用意されている。

もちろん住宅も、商業ビルと同じようにスマートにすることができるといったことは考えられた。しかしながら問題は複雑であった。商業の世界では、事務機器相互を接続するためということから、やらなければならない最低の線というものがあった。

そしてできるだけ様々な機器間のコミュニケーションを実現するために、通信方法や通信手続(プロトコル)が作成されてきた。しかし家電機器のチップに代表されるように、住宅では互いにコミュニケーションすることは難しいかった。

1970年代の終わりまでには、いくつかの会社でこの未開拓分野に興味を持ち始め、小規模なホームオートメーション産業が形成され始めた。

1985年までには、ホームコントロール機器やシステムは、年商3億ドルを超えるようになった。

システムとそれぞれの能力には大きな違いがあったが、一般には中央コントローラを使い、コンピュータのディスプレーや、プッシュボタン・パネルを通して、照明をつけたり消したり、さらに機器のコントロールなどを行っている。

それにもかかわらず、難しい諸問題は、そのままにされてきた。ある種の機能のシステムでは、通信ラインとして既存の配線を使われた。また他の方法として、付加的な機能は、既存の住宅配線に付加されたネットワークを部分的に敷設することで確保された。

しかしどちらのアプローチも統一されたプロジェクトの一部分としてアプローチされた、新しい住宅配線ネットワークと、それに接続されるようデザインされた機器によって実現されるであろうフルレンジの機能は提供していない。

こうしたアプローチは、最も包括的は解であり、最終的にも唯一の、論理的にも唯一の解であるが、残念ながら、実現のためには大きな障害が伴っていた。これについては次の章で述べることにする。


Last modified: Tue May 14 11:15:00 JST 1996
(c) Dr.Shigeaki Iwashita

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