第1章 スマートハウスがやってくる
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1987年4月、最初のスマートハウスの建設が始められた。この住宅とともに、情報化時代の最後に残された未開拓分野の一つが、切り開かれ始めたわけである。
1990年代には、半導体、コンピュータ部品、通信機器、テレビ、ビデオカセットレコーダー、そしてさらに進んだエレクトロニクス機器が、住宅の配線に取り付けられるようになってくるに違いない。そして全く新しい配線システムと新しい機器には、”チップ”が組み込まれることになるだろう。
この建設から10年以内にアメリカとカナダの800万戸の住宅と軽構造建築にインテリジェント配線システムが敷設されるだろうと予測されている。家電製品には半導体チップが組み込まれ、配線ネットワークと、そして機器相互に、また外部の世界とコミュニケーションができるようになるだろう。
住宅はわれわれの社会で電気やガスを使っているほとんど全てのものにつながるようになり、そしてスマートになるだろう。
エレクトロニクス時代の他の大きな技術革新とともに、きたるべきスマートハウスは、アメリカの生活に多くのインパクトを与えることになるだろう。これはこれまで知られたあるいは予見された全てではないが。
ある予測家は今日の住宅では実現できないレベルでの利便性と快適性をスマートハウスが提供できるといったことを強調している。しかしそうした利便性はスマートハウスの広範な能力と大きなストーリーの一部でしかない。
●スマートハウスのシナリオ
あなたが起床する30分前に、給湯器にスイッチが入りシャワーを使う時間までには、ちょうどよい温度になるようになっている。ラジオの目覚し音と合わせ、寝室とシャワールームの照明がつけられる。
部屋はあなたが使う時間までに暖められている。コーヒーはあなたがシャワーしている間に仕上がっており、シャワーが終わった時、ポットいっぱいのコーヒーが迎えてくれる。そしてテレビからはあなたの好きなニュースショーが流される。
日中、外部が暖かくなる場合、もしだれかが家に居るならば、エアコンは室内が快適になるよう保たれるが、電力代が高い時ならば、午後のピークの2時間だけ運転は休止される。
前もって夜に食器が入れられた食器洗い器は早朝運転される。あなたが外出している間、セキュリティーシステムはずっと見張りをしているが、近所の新聞少年が玄関に夕刊を投げ込んでも、まちがっても警察には通報しないといった判断はできるようになっている。
帰宅して着替えをしている間に、留守中録音された電話のメッセージが再生され寝室のスピーカーから流される。その間にあなたがくつろぐデンは、静かな音楽で包まれる。ビデオスクリーンに光のサインで電子レンジの中の夕食が準備できたことを知らせてくれる。
夕闇が迫ってくる頃には、外灯がつけられ庭のスプリンクラーがベゴニアに散水する。そしてテレビのイブニングニュースのコマーシャルの間に、スクリーンに表示されたその日のエネルギー消費量とコストを見ることになる。
就寝する前にスクリーンには全ての外部ドアと鍵のチェック状況が示される。スイッチが入れられた機器の内、不要な機器全てのスイッチが消され、枕元の読書灯も弱く落とされる。夜中に牛乳を飲もうとベッドから歩き始めると、部屋につけられたセンサーがホールやキッチンの明りを自動的につけてくれる。
●スマートハウスの機能
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1.機器のプラグが差し込まれると、その機器が受けるべき適格な電流を配線ネットワークに識別させる。機器や装置とネットワークとの間のコミュニケーションは、ネットワークに設置されたチップと通信可能な、機器に組み込まれたチップによって実現される。
こうした情報をコミュニケーションできるチップが組み込まれた機器がネットワークに差し込まれるまでは、また別な物が差し込まれた場合でも、アウトレットには電流は流れない。
幼児が指や金属製の物体をスマートハウスのアウトレットに差し込んでも、何等損傷を受けることはないだろう。というのも子供や金属製の物体は、どちらもコミュニケーションチップを持っていないからである。
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2.スマートハウスでは、バスルームの洗面器に偶然ヘアドライヤーが落ちても、瞬間的に電流は止められる。過電流が流れた場合や、ショートした場合あるいはアースがとれなかったりした場合、このヘアドライヤーのように瞬間的に電気が止められるといった能力がスマートハウスの全てのアウトレットについている。
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3.ステレオのスピーカーは、音声用の配線を新たにつけ加えることなく、スマートハウスのいずれかのアウトレットに直接差し込むことができる。図では居間にあるステレオ装置から寝室や地下室のスピーカーに音を流している。火事の場合、スピーカーから何かが流れていても、これを中断して警報を流すことができる。
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4.スマートハウスの機器は、ここのどのようなアウトレットにも差し込むことができる。ある人は地下室でステレオのスピーカーのプラグを抜き、電話するために、そのアウトレットに電話のプラグを差し込むといったこともできる。
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5.スマートハウスは、人が部屋を出た時に明りを消して、戻ってきた時につけるといったことを教えることができる。同様に教え込み普段使わない部屋の温度をコントロールすることもできる。
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6.スマートハウスシステムは、一つあるいはそれ以上のビデオディスプレイスクリーンを便利な場所で使うことができる。そしてこれらを通じて機器や装置のモニターが可能である。
このスクリーンにはたとえば冷蔵庫の扉が開けっ放しになっているとか、オーブンやガスコンロがつけっぱなしになっているとか、玄関ドアの鍵が締められていないといった警告を出すことができる。
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7.家中に設置されたセンサーは、侵入者があった時に、警報を発することができる。もちろん夜、愛犬が家に戻ってきた時とか、真夜中に何か食べようとして、冷蔵庫に行こうとした時は、警報を出すまでには至らないよう配慮されている。
こうしたセンサーの配置は固定的である必要はない。必要な時だけ、センサーのセットを借りてきて、必要な部屋のアウトレットに差込んで使うといったことすら可能である。
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8.家の中のあるセンサーは煙や火災を感知することができる。また同じセンサーが、あるいは他のセンサーを冷暖房の調節のために使うことができる。
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9.スマートハウスの全てのシステムが、外部から電話による命令で作動させたり、コントロールしたりすることができる。会社から帰宅する前の適当な時間に、スマートハウスの住人は住宅の室温が快適になっているよう、エアコンシステムに指示することもできるし、オーブンをつけ夕食の支度をするよう告げることもできる。
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10.システムに接続された全ての機器と装置は、スイッチや他のコントロール機器から指示を与えることができる。寝室のスイッチや電話からでも、毎日夜になると全てのドアや窓の鍵を締めるようにすることもできるし、朝の目覚しをステレオ装置に指示し、さらにコーヒーメーカーを作動させることもできる。1階の暖房を起きる30分前に上げて置くようにすることもできる。
スマートハウスの明快な展望をよりはっきりさせるため、この本でわれわれは、まずこれら二つの集中された力を見ることから始め、これらの力の論理とパワーにもかかわらずスマートハウスの実現を遅らせた障害について論評することにする。
つぎにわれわれはスマートハウスの働きがどんなものであるか、やさしい用語で解説したい。その方法として新しい通信技術とその働きに関してのいくつかの質問にも答えたい。
最後にわれわれは予測可能ないくつかの好ましい用途と利便性について論じることにする。この検討では、快適な生活が実現できるスマートハウスの寄与が計算されるだろう。それはまた大きな社会的価値があり、計画と開発に優先性が与えられるべき技術の可能性について考えることになるだろう。