xanadu

ザナデュ


アメリカのフロリダ州オーランドのディズニーワールドの近くに、1983年に建設されたこの未来住宅は、曲面による有機的な形をしている。エアバルーンを型枠にして、20cmのポリウレタンフォームの層を成形している。

エアバルーンは成形後空気を抜き、ポリウレタンフォームの外殻を手作業で修正している。このフォームは外殻としてでなく内装仕上げ、断熱材も兼ねている。

この工法の開発はロバート・マスターズ(Robert Masters)によるもので、彼はイギリスのノースウエスタン大学の修士課程修了後、アメリカで1969年にこの工法による最初の実験住宅を手がけて以来、各地に多くの同様なコテイジを建設している。

この未来住宅全体の設計は未来建築家でもあるロイ・メイソン(Roy Mason)で、エール大学の建築学科の修士課程を出ている。新素材、代替エネルギーの利用、ホームオートメーションなどを駆使した革新的建築の設計に取り組んでいる。

ザナデュは未来的な形態の中にコンピュータ制御された設備機器を組み込んでいる。彼はこの中枢コンピュータをハウス・ブレイン・コンピュータ・システム(house brain computer system)と呼んでいる。

この未来住宅はコンセプト・モデルであり、必ずしもスペック通りに機能するものではない。この未来住宅が建設された1983年当時は、ようやく16ビットのパソコンが出始めた頃である。ホームロボットのキットも発売され、ホームオートメーションに対して大いに夢を持った時代でもあった。



コンピュータ化された住宅、ザナデュの組み込み機能



(1)マイクロステーション

マイクロプロセッサーとインターホンを組み合わせたマイクロステーションが各部屋に設置され、室内のさまざまな情報を集め、照明、暖房、冷房、湿度などを快適になるよう自動的にコントロールする。このマイクロステーションはネットワークを通じ、住宅の中枢コンピュータにつながっている。

(2)ファミリールーム

過去においては暖炉が家族団らんの中心であったが、ここでは、ステレオ、大画面テレビ、テレビゲーム、ビデオデッキなどを備えた、「電子ろばた」によって演じられる。

(3)キッチン

ディレクトリーの中でどの食品の持ち合わせがあるかをチェックできるだけでなく、栄養価を分析し家族の趣向などを考慮しながら、献立を作成することができる。


(4)水耕栽培

さらにキッチンの隣には、新鮮野菜、果物、ハーブのコンピュータ管理された水耕栽培の温室がある。

(5)家事ロボット

将来の可能性として家事ロボットが考えられている。そのためには、階段などにロボットが動き易い配慮が必要であるとしている。


(6)家庭娯楽センター

エプコットセンターのホライゾンにもあるような、ホロスコープを使った3次元画像を生成する「ホロステージ」や、バイオフィードバックセンサーをリンクしたオーディオシステムなどが設置される。

(7)家庭教育センター

子供と大人のためのコンピュータ学習システムがアクセスできる。

(8)主寝室

主寝室は現在のものと最も変化が少ない部屋になるだろう。住宅の中央コントロールセンターとつながったリモートマスターコントロールステーションが設置がされる。


(9)バスルーム

気泡バスやエクササイズ機器、AVシステム、サイクルシャワーなどが設置される。照明はさまざまな環境がエミュレートできる。


(10)ホームオフィス

家庭においてスモールビジネスを経営したり、在宅勤務したりすることができる。コンピュータやモデム、電話、ファクシミリなどで世界中のデータベースと接続できる。



なぜホームオートメーションは普及しなかったのか


ホームオートメーション(HA)の歴史は、1971年に4ビットのマイコンが登場したとこから始まったと言っていいだろう。1975年のポピュラーサイエンス誌には、早くも8ビットのマイコン使ったHAシステムのコンセプトが載っている。しかもこれ以上のものは今のところ出ていないといっても言い過ぎではない。

1978年には、日本でそしてアメリカにおいても、具体的なHAの商品化の努力が始まっている。また洗濯機、ミシン、エアコンなどにマイコンが搭載されたのもこの頃であるし、ホームバスラインといった考え方もこの時、すでに提出されている。

その後HAを搭載した多くの実験住宅を作られ、また多くの会社がHA市場に参入してきている。1987年頃の予測ではHA市場は1990年で4700億円、2001年で1兆円を超えるといった輝かしい未来が描かれていた。しかし1990年の実績は300〜400億円程度と推定され、予測の10分の1以下にしかならない。

なぜこれまでHAが普及しなかったかには、いろいろな理由が考えられる。

(1) トータルシステムといった意識は住まい手にはない。

HAシステムは個々の機器をネットワーク化して、より使いやすくするのが目的であるが、個々の生活者にとって朝起きてから夜寝るまで一連の行為を想定して、それらが円滑に進むように考えている人は少ない。むしろ生活のひとこまひとこまごとが、重要でまた理解もしやすい。

(2) 必要のないところまでシステム化しようとしている。

たとえば、電話でお風呂を外出先から沸かせるテレコントロールであるが、お風呂は衣服を脱いでいる間に沸けばいいわけで、ボイラーの性能を上げればすんでしまう。またテレコントロールそのものも使いにくい。

またリビングにメインコントロールユニットをおいて、リモコンするわけであるが、そんなに広い家ではないので、電灯のついているところまで行って電灯を消した方が、わざわざコントロールユニットの所まで行くよりは近い場合が多い。

(3) 効用にくらべて価格が高すぎる。

価格は普及することによって安くなるが、ほとんど普及していないこともあって、今のところHAシステムの価格は高過ぎる。

(4) 個別機器が賢くなってしまった。

さらに1978年に始まった家電製品へのマイコン搭載によって、個々の機器が実に便利にまた賢くなってきている。リモコンで操作ができるし、わざわざHAシステムでトータルにコントロールをしなくても、ファジー理論など身につけて賢くコントロールしてくれる。

(5) 家庭での情報処理も対象が少ない。

住宅情報化ということで、献立の検索とか、カロリー計算、家計簿などが考えられたが、実際の生活の場へは入って行っていない。献立はわざわざコンピューターで検索しなくても、テレビを見たり新聞を読んだり、さらにスーパーマーケットに行くと献立が自然に決ってくるようになっている。まして家計簿をコンピュータでといった人はほとんどいない。

(6) 家事の省力化に役立っていない。

家事の省力化で最後に残っているのが、調理と後片付け、さらに掃除である。これらが解決されてはじめてHAも歓迎というわけであるが、これがなかなか難しい。失敗する料理というのは人類の長い歴史の中で、家庭料理として残ってきていない。ちょっとよそ見しても失敗しない、あるいは1度失敗しても2度目は失敗しないという料理だけが、家庭料理として残ってきている。

(7) 気軽に設置、機能変更が難しい。

これまでのHAシステムは、新たな配線が必要だったり、HA対応機器に取り替えなければならないなど、いざHAシステムが気に入ってもそう簡単には導入できなかった。さらに機能の追加とか変更も難しい。生活のスタイルは時間とともに変わってくる、生活を支援するHAシステムは当然、その変化に対応し易いものでなければならない。


コンピュータ化された住まいに対する拒絶


 いっぽうHAシステムなどもともと不要だといった意見も多い。それらは大きく5つに分けられのではないだろうか。

(1) そんなに便利になったら人間がだめになる。

 人間努力すれば救われる、努力すれば必ずいいことがあるといった東洋的な倫理感からか、これ以上便利になってどうなるんだということがよく言われる。さらに頭を使わなくなって人間がぼけてしまうのでははないかといった不安を投げかける人も多い。

(2) 故障した場合の不安。

 これまでの電機製品や器具は、故障した場合ある程度ならば自分で直せたのに、今はマイコンがついているので直しようがない。さらに停電でもしたら、凍え死んでしまう、ご飯も食べられないといった状況になる。HAシステムの故障に対する不安が必ず指摘される。

(3) そんなに不便を感じていない。

 今でもそれほど不便を感じていない。これ以上便利になる必要はないのではないかという人も結構多い。とくにコンビニエンスストアや半調理製品など社会的サービスが充実してきているので、住宅に求められる機能は相対的に少なくなってきている。

(4) そんなに複雑な機器を使いこなせる人は少ない。

キーボード・アレルギーの人だけでなく、多くのキーが並んだコントロールユニットを使いこなすといったのは、確かに大変である。ビデオカセットレコーダーの録画予約すらできないといった人が多い中、さらに複雑なHA機器など使えるはずがないという指摘も多い。

(5) 機械に監視されているようで気分がわるい。

あらゆる所にセンサーが付けられ、住まい手の意志ではなく、制御システムのプログラムによって、われわれの生活がコントロールされるようでは気分がわるい。


Last modified: Wed May 1 17:00:00 JST 1996
(c) Dr.Shigeaki Iwashita

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