Third Age Housing Project
サードエイジ住宅プロジェクト


サードエイジ住宅プロジェクトで建設された平屋建ての2軒連続の住宅は、バーミンガム南郊外のシリーオーク(Selly Oak)に建てられた。それぞれ2人用2寝室の住まいとなっている。

その一つはすでに居住されており、もう一つは、設計、コンセプト、高齢者によって使われるよう配慮された製品や材料のテストやデモンストレーションの場として使われている。

このプロジェクトには、英国ガス・ウエストミドランド(British Gas-West Midlands)Copec Housing Trust、セントラル・イングランド大学の建築学科、バーミンガム大学のCentre for Applied Georontology(応用老人学センター)の4つの組織が参加している。英国ガスは、老人のためのモデルハウスが提供できればとしてこのプロジェクトに参加した。

バーミンガムで最大の住宅アソシエーションであるCopec Housing Trustは、シリーオークの敷地を用意した。Axis Pesign Collectiveの建築家のJoe Holyoakは、セントラル・イングランド大学の講師でもあるが、設計を担当した。

バーミンガム大学のCAGは、“1000人の老人軍団”から得た専門知識を提供した。これはいわば高齢者バンクで、センターと一緒に設計や製品を実際に使用してみたり、消費テストを行ったりしている。

住居学では人生を3つに分けて考える場合が多い。1番目は子供、そして勉学のステージである。2番目は、働いたり仕事をしたりするステージである。そして3番目、サードエイジは、リタイアメントとその後である。

それぞれのステージでは、住宅やそこで使われる製品には、それぞれ異なったデザイン要求があるが、設計を担当したHolyoakによれば、サードエイジ住宅は単なるその1つであるが、他の2つもここに含めることができるという。

例えば、ドアの把手一つにしても、高齢者に使い易いものであれば、誰もが操作できるはずである。しかし標準的なドアの把手は、高齢者にとっては、そう使い易いものではないはずだ。高齢者のために設計されたものは、あらゆる人のために設計されたものであると彼は言う。

サードエイジ住宅の把手や鍵は、Titon Hardwareによって提供された。この会社は把手は製作していないが、大きなスプリングによるボタンの製作を行ってきている。

手や腕や肘で押すだけで、ドアを開けることができる1000人の高齢者チームのメンバーがテストした結果、スプリングが強過ぎると報告され、もっと弱いスプリングに変更された。

地域の建設会社LJRidley社と契約された106000ポンド(約2050万円)の建設費は、規模の割には少ないものになっている。これは40社以上のメーカーが材料や部品や設備機器を無償提供したからである。

建築構法はごく当り前のもので、レンガやブロックの壁、木造小屋組みとコンクリート瓦葺きとなっている。というのはそのねらいが、ごく一般的に作られる平屋建ての住宅の標準を作ろうとしたからである。しかしながらエネルギーの効率性、安全性、メンテナンスのしやすさでは、きわめて重視されている。


建築概要


ここには2つの住宅があり、1つはデモンストレーションのものであり、もう一つは実際に居住している。どちらも平家で、似ていないが全く同一ではない。

それらは2寝室で、ガレージを含め72uになっている。2人用の住まいであるが寝室が2つある。これは老人はしばしば別の部屋で寝ることを望むし、客用の寝室も必要だからである。

2人用の住まいにしては、キッチン、ユーティリティとバスルームは比較的広い。こうした部屋は使いにくいという理由で、高齢者の不満が生まれる場所である。どちらの住宅の設備も、あまり老人用といった主張はしないが、老人に使い易いよう特別に設計されたものである。

それぞれの住宅のリビングと、大きな方の寝室は南側の庭に面している。床からの谷の眺めは素晴らしいものである。

リビングルームと主寝室は、ガラスの温室を介してつながっている。これはパッシングソーラーでエネルギーを得るよう考えられたものである。床や壁に熱を貯え、気温が下がったときに放出する。

この温室は、半外部空間としても使われる。ここには座るための3つの異なった気候の場所があり、外を眺めたり、日光浴をしたりすることもできる。ここには気泡浴槽も備え付けられている。


一方の住宅の主寝室と居間は、内部ガラス窓によって仕切られており、もう一方の住宅ではスライディング・ウォールで仕切られている。これらは2つの機能を持っている。第一に、狭い家で空間に拡がりを演出しようとした。


さらに、寝たきりの人が、視覚的にもまた聴覚的にも居間と空間的に孤立することを防ごうと設計されている。同様な理由で、寝室の窓の下端は特に低くなっている。


見やすさ


空間プランニングの一つの大きな判断基準は、インテリアの透過性を大きくすることであった。主要な部屋間を、ある種の仕切りによって生まれる孤立性をなくすため、ガラススクリーンが使われている。一つのガラススクリーンは、キッチンとホールとの間にあり、これを介して互いに見たりしゃっべったりすることができる。


キッチンの一方には、外に面したガラス窓があり、玄関への訪問者を中から見ることができる。寝室の窓は通常のものより下端が低くなっており、寝たきりになった人が、枕から頭を上げないでも外が見えるようにすべきであるといった心理学的な面から配慮されたものである。

この住宅には2つの寝室がある。これは1000人老人チームの意見を反映させたものである。知合いや孫をどこに泊めるか?そして一方が病気になったり寝たきりになった時には別々の寝室に寝ることも可能である。


安全性、アクセスしやすさ、そしてディテールへの配慮が重要ポイントであった。大きな特徴は、床から1m程の高さに木製の腰羽目レールを、それぞれの部屋の周囲に設けたことである。これはまた全ての電気配線のダクトにもなっている。

スイッチやコンセントはここに取り付けられている。かがんだり、しゃがんだりしなければならないスイッチやソケットは老人には難しいのでこの位置は都合がよい。

しかしそれだけではなく、配線ダクトを使っているので、インテリジェントハウスへの再装備も行い易く、さらに一層使い易いものになるはずである。すでに1つの部屋では、照明のON/OFFに赤外線リモコンが使われている。

この手摺り兼ねたレールは、手作りでしかも見た目にスマートではない。「市場では、商品性があるかどうか、また制度的にもどうかといった見方があるが、実際にそれが有効であると感じた。」とブッティシュ・ガスのClens氏は言っている。

壁に取り付けられた照明は、MKEectricの製品で、取り外しができる。電球を取り代える様にブラケットと電気的接点から器具をスライドさせ外すことができる。


タッチの温かさ


全ての放熱機は、低温表面パネルになっているが、暖房能力はこれまでのものと同じ物になっている。老人が倒れた際にそこから離れられなく火傷をしたり、高齢になると温度感覚が減少して触ったままでいる可能性があるからである。

またここには、3つの異なった給湯システムが比較実験のため設置されている。一つは比較的小型のガス瞬間湯沸器で、この住宅は断熱性が高く、また、パッシングソーラーになっているので、これだけでも十分給湯暖房が可能である。

さらに貯湯式のガスボイラー、もう一つは電気、ガス、地域給湯などを利用したハイブリッドなボイラーである。

BDC社とCare Design社のキッチンユニットは、壁に取り付けられており個別の要求に対応して、上げたり下げたりすることができる。

例えば車椅子の人の場合と、立って使う場合とではワークトップの高さは異なっている。バスルームの洗面台の高さも同様に高さ調整可能なものになっている。


Caradon Twyford社の浴槽は、高齢者が出入りしやすいよう工夫された物になっている。浴槽の一方の端は段状になっており、台に座って給湯をしたいといった場合に使うことができる。またエプロン部分には、プラットホームが設けられており、そこに座りながら体を回転させ浴槽にはいることができる。

バスルームの脇にあるシャワーはシャワートレーがなくフラットになっており高齢者に使い易い。さらに、握ぎりバーや折りたたみ椅子が壁につけられている。

またノスタルジックな雰囲気を演出するため、復元されたガス灯が外部照明として使われている。オリジナルなものと違って、これら住宅内部からリモートコントロールで点灯することができる。


サードエージを3つの段階に分ける


あまりにもしばしば、老人は彼らの住まいを移り変えることを求められている。建築は、彼らの専有にはふさわしくなるので、特に彼らが安定を望んだ場合には顕著である。余りにも大きすぎたり、多くの段差があったり、ふさわしくない間取りになったり、バスルームやキッチンのしつらえが不適当だったりするはずだ。

サードエイジ住宅プルジェクトは、ローテクとハイテクとの組合せで、リタイアメント住宅の様々な設計の可能性を検証することを目指している。フレキビィティのなさが、大きな障害として残っている。建築の躯体は変更が難しい。

サードエイジ住宅計画は、リタイアメント住宅に特化した住宅として設計しようと試みられている。しかしながら、おそらく最終的に設計されたものは、一般にも適用できるようなものになっているはずだ。リタイアメント後の生活には、次の3つのステージが見込まれる。

(1)リタイアメント初期

自活が継続する。興味や趣味を追求するためより自由になる。

(2)リタイアメント中期

一般的レベルでの自活は維持される。能力や移動力は、ときには減少する。外部の支援サービスを受けることもある。

(3)リタイアメント後期

自活力が減少する。相当にあるいは全面的に外部の支援に依存する。

こうした各ステージを移行する間に、住まい手がより適切な住まいを求めるため、様々な思い出や所有物や裕福な気分を残して移り住むことになる。


コンセプト



1976年から86年の10年間に、年金資産は増加した。しかしこの大きな資本にもかかわらず、建築の設計に関係しているが、実際の収入は減少している。この大きな出費は、より楽で安い生活のために使うことが可能である。

エネルギー費が少なく、セキュリティーや安全、そしてメンテナンスが少なくてすむような住まいの開発が求められている。これはサードエイジ住宅のコンセプトでもある。55歳からの問題を最小限に押さえるよう、安全性、経済性、利便性が配慮された住宅である。

このプロジェクトは、住まい手が年をとるのに合わせて変化する要求に、住宅や設備がいかに対応できるかを示すねらいを持っている。よい設計は、家族の成長に合わせて拡張できるものとされ、いろいろ考えられているが、子供が離れて住宅を狭くできる様なものは少ない。 

サードエイジ住宅は、リタイアメント予備世代の人に住んでもらうよう設計されており、さらに住まい手が年をとって体が不自由になっても、対応できるよう配慮されている。それは快適性や利便性を重視した間取りと空間の設計によって実現している。


インテリジェント化


すでに多くの機器はインテリジェント化されている。セントラル暖房のコントロール、洗濯機、電子レンジなどは、マイクロコンピュータ技術がすでに利用されている。

インテリジェントハウスの時代は、総合化された配線システムによって出現しようとしている。これは、住宅の神経中枢としての通信ネットワークを介して通信、制御、モニターを行ういくつかの異なるホームシステムをもたらすことになるだろう。

これらのシステムは、集中制御あるいは住まい手による個別操作ができるようになるに違いない。

今回の住宅は、すでに多くのシステム、例えばセントラルヒーティング、オーディオビジュアル、火災報知やセキュリティー等が組み込まれている。電力の供給がそれら全てになされているが、それらは互いに孤立しており、それぞれの配給システムを持っている。

これとは対象的に、将来普及するであろうインテリジェントハウスは、総合されたものになるはずだ。

娯楽

総合化された配線システムは、住宅の隅々でAV信号を受けることを可能とする。テレビのスクリーンはコントロールシステムのディスプレイとしても使われる。

セキュリティー

電子ロックやセンサーは、住宅あるいは外部の警備システムにつなげることができる。外部に面したドアや窓は、テレビやリモコンパネルを通してチェックすることができる。

経済性

住宅全体あるいは個々の部屋の内部環境は、センサーとの対応で、あるいは制御プルグラムによって自動制御が可能である。

利便性

共用配線システムは、照明や機器のON/OFFをいろいろな所からできるようすることができる。また、目の不自由な人や体の不自由な人のためには、音声認識や音声合成が利用できる。

安全性

火災警報に加え、ヘルスケアの目的からセンサーが、住まい手の状態監視をするようになるだろう。

リタイアメント初期のステージでは、こうしたインテリジェンスは、レジャーや利便性に主として使われる。起床の30分前には、早朝のシャワーを準備するため湯沸器が点火される。寝室とバスルームの照明は点灯され、ラジオが目覚しがわりに鳴り始める。

朝使われる部屋は前もって暖められ、コーヒーも朝のテレビニュースと同時に沸かされる。こうしたことは今世紀中には、リタイアメントハウスでごくあたりまえになるに違いない。

リタイアメントの最後のステージでは、システムは住まい手の安全性やセキュリティーのために組み替えることになるだろう。いろいろなセンサー(人体感知、温度、照度、煙など)は、安全性やヘルスケアといった新たな役割を果たすことになるだろう。


Last modified: Tue April 30 20:00:00 JST 1996
(c) Dr.Shigeaki Iwashita

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