GE Plastics House
GEのプラスチックス・ハウス


この未来住宅が建設されたのはボストンおよびニューヨークから車で3時間ほどのピッツフィールドで、シェーカー教徒のビレッジもある小さな町である。ハイテク技術が使われているが、外観もインテリアもシンプルでトラディショナルである。シェーカーのビレッジに馴染むデザインである。

「快適住環境」コンセプトハウスと名付けられたこの住宅は、革新的な建築システムや建築部材の開発を目的にした長期プロジェクトの一環として建設された。生活廃棄物の処理が問題になっているが、こうした資源の再利用もこの住宅の大きなねらいの一つになっている。ここがこれまでの未来住宅に見られなかった注目される点である。容器や自動車などで使用されたプラスチックスを回収し、ハイテク建築資材として活用しようとするものである。

住宅にも資源回収のための機器が組み込まれている。ボトルや包装用プラスチックスを投げ込むと、バーコードリーダーがエンジニアリングプラスチックスと汎用プラスッチクスとを識別し、エンジニアリングプラスチックスは再使用できるので、粉砕されストックされる。

またこうして回収されたプラスチックスを活用したハイテク建築資材も数多く使われている。屋根や外壁はもちろんプラスチックッスであるが、表面仕上げに工夫がなされているのでたたいてみないと、何でできているかわからないほどである。

断熱パネルも構造パネルもプラスチックスの複合材料で、プラスチックスの加工性の良さから、配線や配管、空調のダクトなどのスペースも自在にできるよう配慮されている。間取りの自由度も未来住宅では必要というわけである。

その配管にも工夫がなされている。給水管、給湯管、排水トラップなどが一体成形されたちょうどプリント配線基板のようなパネルがキッチン、洗面などで使われている。

キッチンの作業台もプラスチックスとセメントの複合材料で、その奥の方には溝が彫ってあって、水が流せるようになっている。東京のお寿司屋さんで見かけたものをヒントにしたのだという。このほか床下収納ユニットやシャワーユニットなども日本の優れたアイデアとしてこの未来住宅に取り入れられている。

ここには未来の機器の実物大模型も置かれている。壁に取り付けられたスマートな中央コンピュータ、液晶ディスプレイのコンソールユニット。照明や空調、安全管理、在宅勤務などもこのコンピュータによって行われるはずである。またリビングには角度調節が自由な大型平面テレビも置かれている。

こうしたハイテク機器もダイニングに置かれたシェーカーの伝統的なテーブルや椅子と実にマッチしている。自然や伝統との調和も明日の住まいにとって大切なことである。

地階平面図

4人家族を想定したこのコンセプトハウスは、地下1階地上2階建てで280uの広さになっている。木とプラスチックスを組み合わせた大きな玄関ドアを開けると広い吹抜けのロビーと階段が見える。階段の先の大きな窓を通してきれいに手入れされた芝生の庭が見える。

1階平面図

ロビーをはさんで右側がリビング、左側がキッチンとダイニングルームがある。リビングの北側のコーナーはホームオフィスとなっている。南側のガラスドアを開けると広いデッキに出ることができる。デッキはキッチンにもつながっている。キッチンは開放的でアイランド型の調理台を設け、その前には小さなカウンターがあり朝食はこのカウンターでとることができる。

2階平面図

庭を見ながら階段を上がると2階はプライベートゾーン。右側にマスターベッドルーム、マスターバスルーム、左側は2つのベッドルームとバスルームがある。マスターバスルームはシャワールームとトイレを除いてオープンになっている。プラスチックスと木と石といった自然の素材とがうまく組み合わされている。小屋裏を見せた天井は最高6m程もありきわめて開放的なベッドルームになっている。

階段をさらに上がると、左側の二つのベッドルームの上が屋根裏部屋になっている。デンとして使うこともできる。いっぽう地下室はコンセプトハウスのプレゼンテーションエリアとして使われているが、庭と直接つながっているので雪の日には、ここから出入りしたり、外で使うものを置いたりするバッファースペースとして使われるに違いない。


プラスチックス・ハウスに組み込まれている機能


それではこのコンセプトハウスの特徴を外観から順を追って一つ一つ説明することにする。
プラスチックスの外壁

外壁材もプラスチックス。サイディングはもちろんモルタルのように見える部分もプラスチックスが使われている。熱可塑性プラスチック高発泡体に、特殊スプレイ塗装で石状の表面化粧を施したものである。


きわめて軽い屋根葺材

屋根葺材もプラスチックス。日本の準防火地域、防火地域では利用できないが、アメリカでは認められている。きわめて軽量で施工性は抜群である。


多機能な玄関ドア

玄関ドアカメラは、玄関ドア本体の上部に組み込まれている。またこれまでのピープホール(防犯めがね)も目の高さに取り付けられている。ドアカメラはピープホールの仲間、ピープホールと同じ方法で組み込むのがベストといった発想である。さらにカメラだけでなく電気錠のためのカードリーダーもドア本体に組み込まれている。このあたりもスマートな納まりになっている。


お掃除ロボット

ホール脇に置かれた掃除ロボット、もちろん実物大模型である。コンセプトハウスの場合、こうした模型はわれわれに夢を与えてくれる。しかし家事ロボットの中でも掃除ロボットが最も難しいようである。


向きが自由に変えられる大型平面テレビ

リビングのコーナーに置かれた大型平面テレビ。背面に取り付けられたヒンジによって任意の角度に合わせることができる。平面テレビというととかく額のように壁に直に取り付けられる場合が多いが、こうした方法で設置するとさまざまな使い方が可能となる。


スマートなホームコンピュータ

ホームオフィスに置かれた中央コンピュータ。CPUは壁に取り付けられている。左脇にCD−ROMのドライバーが組み込まれている。情報ラインを幅木配線しているため、CPUから下にスカートのようなものが出ている。コンソールユニットはホームオフィスのデスクの上に置かれている。アップルコンピュータ社のナレッジ・ナビゲータに似たデザインで、液晶ディスプレイでキーボード右脇にトラックボール、左脇にCD−ROMのドライバーが組み込まれている。


天井レースウエーに取り付けられたハロゲンランプ

リビングの照明は天井のレースウエーにハロゲンランプが数多く取り付けられている。このレースウエーにはスピーカーも取り付けることができる。


タッチパネルCRTのホームコントローラ

キッチンの壁に取り付けられた、ホームコントロールのコンソールユニット。CRTの上にタッチパネルがついており、コマンドを選ぶことができる。部屋の指定はフロアプランが表示される。ボタンがたくさん並んだわが国のコンソールユニットに比べ使いやすいデザインになっている。玄関カメラなどの画像はビデオプリンターによりプリントアウトすることもできる。


石板焼きもできるガス調理器

ガスコンロ脇には石板が置かれている。ガスバーナーで裏側から加熱することができ、石板ステーキなどができる。石板には取っ手がついているのでそのままダイニングにもってゆき、サーブすることができる。


水で流せるワークトップ

キッチンワークトップの奥の方には溝が彫ってありボタン一つで水を流すことができる。東京のお寿司やさんでみかけたことからヒントを得たのだという。水がかけられる手持ち式のフォーセットも取り付けられている。


温度設定自在のワークトップ

ワークトップは複合材料(特殊ポルトランドセメントに熱可塑性エンジニアリングプラスチックスをまぜ表面にシリコンシラーを塗布したもの)と木製との二つのパートからなっている。複合材料の部分の下にはヒーターとクーリングパイプが組み込まれており任意の温度に設定することができる。


プラスチックス一体成形の集約配管システム

シンクキャビネットのバックパネルは配管の集約システムになっている。排水トラップ、給水パイプ、給湯パイプが一体成形され、ちょうどプリント配線基板のようになっている。


キッチンに置かれたプラスチックスのリサイクルユニット

ワークトップの脇にはボトルや食品包装用プラスチックスのリサイクルユニットが組み込まれている。バーコードリーダーがエンジニアリングプラスチックスと汎用プラスチックスとを識別し、エンジニアリングプラスチックスは粉砕されストックされる。


足のつまさきで制御する水栓

シンクの水栓はキャビネットのけこみ部分に、足のつまさきを入れることにより、出したり止めたりすることができる。シンクボールとトップとは複合材料の一体成形となっている。


伝統的な家具とマッチしたダイニング

キッチンとダイニングを仕切るワイン棚の上には、食べ物を暖かく保つために赤外線リングヒーターがついている。ダイニングテーブルはシェーカー教徒の伝統的な家具である。


アイロン台、セータードライヤー、ブーツドライヤー

キッチン脇のアイロン台。アームがついており使いやすい位置に動かすことができる。洗濯乾燥機の横の作業台には、下から温風が吹き出すセータードライヤーが組み込まれている。さらにデッキへの出入口には、ブーツドライヤーが設置されている。


ジェットバスとシャワーユニット

マスターバスルームにはジェットバスおよびスチーム/シャワーユニット、ボディードライヤーが設置されている。これらは日本製でコントローラの表示も日本語になっている。これ以外にもこのコンセプトハウスには多くの日本企業が協力している。


健康チェックユニット

マスターバスルームに置かれた健康チェックユニット。円盤の部分に手の平をのせることにより、各部分の温度分布から健康がチェックされる。情報ネットワークに接続されており中央コンピュータに記録される。


フィットネスマシン

マスターベッドルームに置かれたフィットネスマシン。前面に置かれた平面テレビを見ながらエクササイズできる。床にある黒いコネクターにケーブルを接続することにより、中央コンピュータと接続される。ここは主寝室であるので、窓は液晶調光フィルムが貼られたガラスになっている。スイッチ一つで外が見えるようになったり、外から見えないようにしてプライバシーを守るようにすることができる。


床下収納ユニット

寝室の床には床下収納ユニットが組み込まれている。中には貴重品や普段使わないものが収納される。これも日本のよいアイデアとして評価されこのコンセプトハウスに採用された。


リモコン制御の天窓ルーバー

天窓のルーバーは赤外線リモコンで開閉ができる。さらに天窓はポリカーボネートシートで、表面に薄く色づけされたシートが貼ってあり、温度が上昇しすぎたり、カーペットや家具の色あせがないようにしている。


プラスチックス便器

中空成形された便器には、排水管径を小さくして流水量を減らせるよう、排水の前処理を行うユニットが組み込まれている。またロータンクは超薄型で壁の中に収納することができる。これも集約配管システムと同様プラスチックスの一体成形である。


温風輻射暖房壁

輻射暖房壁はTEC(トータル環境コントロール)ユニットからの温風を利用している。中空成形で作られたプレナムから幅木へ、さらに壁パネルの中の通路へ送り込む。これまでのダクトが不要で壁内部に貼られた金属蒸着プラスチックスフィルムで外部への熱の拡散を防止している。


配管が自由な発泡床ブロック

発泡床ブロックは30cmの格子状に溝が作られている。この溝を使って給水、給湯などの配管が行われる。配管システムはフレキシブルで簡単に接続できるよう工夫されている。配管の変更も容易でまたその都度配管を固定する必要もない。またこの床の溝はバスタブ、シャワーパンなど設置の際の位置ぎめおよび固定にも使われる。


プラスチックス型枠

地下室の壁のコンクリートは、軽量で組立容易な「バロックス」ストラクチュラルフォーム製の型枠を使って打設される。


ウッドストランド集成材の構造部材

外周壁の外側には小さな真空パネルを並べて断熱をしている。その内側の波形パネルは構造部材で、プラスチックスと木毛とのウッドストランド集成材である。床の構造材にもこのウッドストランド集成材が使われている。


プラスチックス・ドア

中空成形しプラスチックス発泡体を充填したドア。ドア枠は配線ができるレースウエイになっており、スイッチボックスを取り付けることもできる。


トータル環境コントロール(TEC)ユニット

トータル環境コントロール(TEC)ユニットは、熱交換、逆浸透による水の浄化、熱の供給などのユニットがモジュール化されており、任意に組み合わせることができる。家中の暖房、冷房、給水、熱回収の機能を統合的にコントロールする。


GEはこのコンセプトハウスを世界中の多くのパートナーと協力して建設した。またここでのビジョンの実現のため現在50以上の企業とプロジェクトを進めている。すでにいくつかの日本企業も参加しているし、今後新たな参加も可能である。素材と技術の提供がGEにより行われ、実際の商品化はパートナー企業が行うといったことになるに違いない。 また見学の際は20号線にあるシェーカー教徒のビレッジも一緒に見ることをお奨めする。
Last modified: Thu may 2 11:00:00 JST 1996
(c) Dr.Shigeaki Iwashita

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