ARCOSANTI
アルコサンティー


イタリアの哲学者であるとともに建築家のパオロ・ソレリ(PaoloSoleri)の指導のもと、コサンティー(cosanti)という非営利財団が、1970年以来アリゾナ州フェニックス近郊で、未来都市のプロトタイプづくりを行っている。

これは約3000人を収容する未来都市のプロトタイプで、約20人のスタッフによって現在ももくもくと建設が進められている。

この建設作業はアメリカのいくつかの大学のワークショップとして認められており、参加することによって単位が修得できる。もちろん授業料(参加費用)が必要であるが、興味のある方のために、連絡先を次に示すことにする。

Cosanti Foundation 6433 Doubleree Road. Scotsdale,Arizona. 8253 U.S.A


アルコサンティーのエントランス



公共スペースとして、さまざまな催し物が行われるボールト
ボールトの中間が切れており採光に工夫されている。なにしろここはほとんど雨の降らないアリゾナ砂漠。



お祭り広場のメインステージでは普段は、おみやげ(ここの大きな財源にもなっている)の土器製の風鈴づくりが行われている。
季節になればジャズなどさまざまなフェスティバルが行われる音響効果も考えられたステージでもある。



居住棟の屋根。しかしここで居住できる人は恵まれた人。多くの参加者はキャンプ生活となる。



エントランスから最も離れた居住棟。


Arcology
Architecture & Ecology
  アーコロジー


パオロ・ソレリの基本的な理念は、これからは都市をコンパクト化してゆかねばならないというものであり、とくにモータリゼーションによって巨大化し、資源を浪費し人間を疎外している現代都市に対するアンチテーゼでもある。未来都市はスペースやエネルギーを最大限に有効利用することが必要で、彼はそれをアーコロジーと呼んでいる。アーコロジーは建築とエコロジーの合成語で、アルコサンティはそれを具現化したプロトタイプである。

太陽エネルギーを最大限に吸収できるよう建築物をデザインするほか、大規模な温室を作って太陽熱を集め、都市全体に供給するなど、自然エネルギーの有効利用が考えられている。

アーコロジーの理論を紹介することにする。「構造的にスプロール化し、行き詰まった都市に対してオルターナティブを提供すること。アーコロジーにおいては、都市を密度と複雑性を備えた一つの有機体として捉え、自然環境に対してもダイナミックに対応しうる生態系の一部として構築することにより、省エネルギー、自己充足型の環境を作り出すことができる。

宇宙進化のパラダイムである、複合化、凝縮化、持続性を概念としている。すなわち無限に希薄な宇宙から、思考体としての人間への成長、さらに次なるものへの飛躍をはらんだ生命現象のアナロジーとしての都市を提案している。

凝縮化とは単に大きなものを小さくする小型化のことではなく、物質界・時空間の拘束状態に、根本的に存在するハンディーキャップを最小にするプロセスである。すなわち生命の進化に見られるような、質的に高いレベルの複合性に向かって、自らを内包し、かつ内破しながら、高密度に凝縮化する。

人間の精神エネルギーを集合的に包括する有機体としての都市は、その完成に向かって凝縮化されねばならす、その実態化がアーコロジーである。形態学的には人工の自然となるので新・自然と呼ぶ。」


村からアーコロジーへ



Village(村)
村の生活は原始的であるが、人情が厚く自然も豊かである。人間関係は有機的であるが複合性に欠けている。田舎独特の偏狭さがあって時には住み難い。




Suburbia(郊外)
郊外の生活は無味乾燥で不毛である。住まうという単調な機能だけしか持たない都市が異常な増殖を繰り返す。またアスファルト・ジャングル化して無限に大きくなりつつあり、自然破壊をしている。




Megaloplis(メガロポリス)
大都市の生活は不条理で病的である。ウエハースのように地上に薄すくはって、巨大化してゆく2次元の都市。垂直には何の関心もない。爆発を繰り返して、消耗してゆくだけにすぎない。




Archology(アーコロジー)
アーコロジーでは、筋が一貫して意義のある生活をすごすことができる。完全に有機的な関連性がある。エコロジーと共生した巨大構造に、ヒューマンスケールが組み込まれ、なおかつ外に解放された都市である。内部に充実してゆくエネルギーを持つ。


アルコサンティーの完成


現在彼らが作っているのは、アルコサンティーではなくその前の拠点で図の左下に位置している。われわれがここを訪れたのは1991年で、建設開始からすでに20年以上経過しているが、最近はあまり建設も進んでいないように見受けられた。もう10年以上も建設は行われていないようである。

おそらくこの調子で建設を続けたならばアーコサンティーの完成には数百年といった歳月が必要だと思われる。建設費用はざっと見積もって500億円程度、ゼネコンならば3年程度で完成できるはずである。住専でのわれわれの第1次負担の1/10の費用、1人500円負担すればこの壮大な実験は完成する。

アーコサンティーの見学料は4$で1日の見学者は200人程度であるので、建設作業はボランティアとしても材料費を見学料から捻出するとすると600年以上もかかってしまう。

この10年間の建設の進行を考えると、彼らはアルコサンティーの完成にはそれほどこだわっていないように見受けられる。完成自体が目的ならばこの20数年の間にもっと商業的運営の可能性もあったはずである。

コルビジェなどの機械とのアナロジーに代わる、生物的プロセスのアナロジーから建築・都市を考えようとし新しい概念は、パオロ・ソレリだけでなく1960年代に多くの建築家によって提案された。ウッツォン、サフディー、ハブラーケンそして黒川紀章などメタポリズム・グループなどであるが、とくにハブラーケンとメタボリズム・グループは、形態だけでなく都市・建築の変化と成長の概念を有機体の生命システムに求めた。

1900年に15億人であった世界の人口は、1960年には30億、1998年には60億人に達する見込みで、このままでゆけば2050年には100億人とも予測されている。こうした爆発的な人口増加で、地球は人と都市によって覆い尽くされようとしている。

しかしこうした爆発的な人口増加は発展途上国の問題であり、先進諸国では長期的にはむしろ人口は減少する傾向にあり、いくら効率的であるとはいえ新たな人工的な大都市のニーズはもはやない。

またインターネットもそうであるが情報通信システムの発達によって、必ずしも大都市に集中して居住するメリットもすくなくなってきている。アメリカではすでに勤労者の5%が会社には出勤せず自宅などでテレワーキングを行っている。


Last modified: Wed May 1 10:10:00 JST 1996
(c) Dr.Shigeaki Iwashita

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